ロードオブカオス【映画評】

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そういえばこういうものも書いてた時期があった。

ブラックメタルを聴きやがれ!!

仕事後の僅かな時間を使って夜な夜な必死で書いていたのを覚えています。当時の俺は腰がすごく悪くて、これ書き終える頃には腰痛が劇的に悪化したものです。とはいえ、これはこの本をそのまんままとめただけです。だいたい。

お金払いたくない人は↑の記事を読んでください笑

上の本は馬鹿馬鹿しいサブカル本と思われてそうだけど、ブラックメタルの思想の変遷を、メタルの歴史と欧州の宗教史とを絡めて哲学してゆく超絶知的本なので、メタル好きな人は絶対読むべき。西洋哲学に興味ある人にもアピールすると思う。それでいてブラックメタル界隈のキチガイがもれなくアーカイブされてるので、楽しく読める知的本ですな。そのぶん思わず怯むほど分厚い。特にブラックメタル界最重要イデオローグであるヴァーグ・ヴァイカーネスの心の闇がどんどん危険思想へと深化し、単なるRPG大好きオタク野郎がどんどん戻って来れなくなって行く姿…涙なしには読めない。

というわけで、ワタクシはブラックメタルの隆盛についてはかなり知識があるほうだ笑。この世で最も無駄な知識かもしれないが。そんな自分からみると、この映画は特別驚くようなこともない、事実の羅列である。ところどころ脚色創作が加えられている。みるべきところは過剰なまでにリアリズムに満ちたスプラッター描写と、俳優たちの演技だろうと思う。

事実の羅列って言ってみたところで、このブラックメタルカルトがしでかしたノルウェーの教会連続放火事件と、同性愛者刺殺事件、ユーロニモス(本名オイスタイン・アーセス)刺殺事件は相当猟奇的な異常事件で、これをドキュメンタリーするだけで相当面白い映画になるのは約束されていたといえる。それほど奇妙でおかしな事件だ。人間の心の闇を覗き見るに丁度良い、格好の素材なのだ。過去にはドキュメンタリーも作られている。

ブラックメタル的サブカルチャー③ ライトテイクスアス ~ブラックメタル暗黒史~

80年代の地下メタルに影響を受けたノルウェーのとあるアマチュアバンド「メイヘム」。そのリーダーであったアーセスは、フロントマン「デッド(本名ペル・イングヴェ・オリーン)」と出会い組み始めてからミュージシャンとしては怒涛の快進撃を続ける。それまで割とありがちな地下臭いハードコアパンクのような音だったのだが、デッドのライブ上での異常パフォーマンスに真の悪と狂気とをみた観客はメイヘムに熱狂。音楽としてもサタニズムを全面に押し出し、まあまあ味のある雑音を奏でていたのでファンが急増。

メイヘムがそれまでと違っていたのは、単なる悪っぽいアイコンとしてのガキっぽいサタニズムではなく、割と本気っぽいカルト思想らしさを醸し出していたことだった。無論ハッタリだったのだが真実味を与えたのはデッドのパフォーマンスだ。ステージ上で自傷行為をして血を観客にばら撒いたり、豚の頭や内臓など動物の死体をばら撒いたりした。ステージに上がる何日も前から衣装を森に埋めて、腐って湿った状態で掘り起こし、それを纏って死体が蘇ったようなパフォーマンスをした。日常的に棺桶で寝起きしていたらしいという話も本当だ。(各エピソードの真偽はともかくとして、デッドがタナトスに魅入られていたのは間違いなかろう)

アーセスは若者特有の反抗の象徴として、敬虔なキリスト教国家ノルウェーでサタニズムを標榜したわけだが、結局は客の観心を得るため、出世の手段としてのパフォーマンスであった。

一方、デッドはモノホンの異常人格者で、重度の精神疾患を患っていた。(おそらく鬱やパニックであろうと思う) ある日体中を切り捌いて散弾銃を頭に当てて自殺。森の中で隠遁生活を送る中で治療が中断され、鬱症状が悪化したのだろう。(このシーンはやばいので精神疾患を持っている人は見ないほうがいい)

病人が一種のカタルシスを得るための手段としておどろおどろしいメタルをやっていた。こう解釈してもいいのかな〜と思う。アーセスとは本気度が違った。アーセスは作り物の悪を演出する天才ではあったが、「わっちは本物には勝てねえズラ」との負い目がずっとあったと思われる。

アーセスは本物がいち早くあっちの世界に旅立ってしまって途方に暮れた。途方に暮れはしたが、脳みそはみ出たデッドの死骸を前にしてパシャリと写真を撮り、新作CDのジャケットにした。デッドの頭蓋骨の破片を集めてネックレスを作った。写真は本物だと思うが破片はどうだったかとかはよくわからない。アーセスによれば本物で、メイヘムのメンバーは皆それを身につけた。

デッドの異常パフォーマンスで人気を博していたメイヘムだが、皮肉にもデッドが名前の通り本当に死体になっちまったもんだからブラックメタルって超本気のカルト思想集団なんだなーとガキどもは余計熱狂してしまった。アーセスは知名度を利用し、「デスライクサイレンス」という名のレコードレーベルを設立。首都オスロに「ヘルヴェテ」という名の小さな店を構えた。いつしかそこは「インナーサークル」と呼ばれるカルト集団の本拠地とみなされるようになった。そこへある男が訪ねてくる。

クリスチャン(キリスト教徒)と名乗るその男は、のちのヴァーグ・ヴァイカーネスだ(改名したそうである)。たぶん、メタルの暗黒界隈では最も悪名高い人物で、ハッタリ抜きの本気のキチガイに成長するが、アーセスと出会った頃はまだウブいティーンエイジャーである。メイヘムのサウンドに憧れ、デッドの異常パフォーマンスに熱狂するフォロワーの一人である。自分が作った音楽をアーセスに聴いてもらいたくて、デモテープを持参してオスロまで数百キロの道のりをわざわざやってきた。(というふうに映画では描かれている)

もちろん、カリスマとして既に崇められていたアーセスはヴァイカーネスの師のような存在となるのだが、映画では匂わす程度であまり描かれないが、ヴァイカーネスは実は10代半ばには既にネオナチ思想に染まっていた、とされる。大義を全うするため、実力行使(=暴力=テロリズム)が必要不可欠だと本能的な理解があったと思われる。これは桜田門外で井伊直弼を襲撃した水戸藩士とほぼ同じアチチュであり、全世界に普遍的なものだ。言うなれば男のロマンである。

ヴァーグはアーセスと出会い、漠然とした既存秩序に対する反感が、反キリスト思想へと深化するサマに興奮する。音楽活動のPRにちょうど良いと迷うこともなくノルウェーの歴史ある教会を放火。焼け落ちた教会の廃墟をアルバムジャケットに使用。ファンは熱狂し、フォロワーが続出。少なくとも40以上の教会がノルウェーで焼かれ、アメリカでもこの頃教会放火事件が多発。アーセスとヴァイカーネスの思想がアメリカにまで渡ってしまった。

アーセスは思想に関してそれ以上頓着しなかったが、ヴァイカーネスのサタン信仰はいつしか多神教崇拝へと変わる。キリスト教が排斥した悪魔たちは、つまるところ北欧神話の神々である。「サタン」はとどのつまり、キリスト教の価値観の枠組みの中の概念であり、キリスト教を打倒したその後には異教の神々が君臨するはずなのだ。

ンな話はどうでも良いようだが、マジのテロ思想を持つに至ったヴァイカーネスにとっては重大事項である。土着宗教への憧憬はあっという間にファシズムと結びつき、もともとあったネオナチ思想へ回帰して行く。全ての辻褄があってしまったわけだ。ヴァーグは迷う必要が全くなくなり、悪の道を突き進んで行く。

さて、困ったのはアーセスだ。正直、CDが売れればそれで良かったのに、配下のサタニスト達がこぞって実力行使の快感に酔いしれ、次々とモノホンの刑事事件を起こしてゆくわけだ。その思想的主犯は表向きはアーセスである。官憲がアーセスに辿り着くのも時間の問題だろう。本当に捕まっちゃ話にならない。店の経営もあるし、音楽活動も宙ぶらりんだ。困ったもんだ…どうするよ?

このように、アーセスは思想的主犯どころか現世に順応した日和見主義者であり、まさにノルウェーの富裕層の見本のような凡人である。ただミュージシャンとしてはそこそこ才能があった。彼らのアルバムを聴けばそれがわかる。

劇中、メイヘムのフルアルバム「De Mysteriis Dom Sathanas」のレコーディング場面があり、往年の名曲「FUNERAL FOG」がかかる。このパフォーマンスはブラックメタルファン目線ですごくカッコいいわけです(当時のゲストボーカルのアッティラも登場するのが胸熱だ。劇中なんの紹介もされていないのに存在感抜群なのが良い)。必見といってもいいぐらい。メタルファンにならこのカッコ良さはわかるはずなので是非観てほしいところである。

さて、とはいえこの映画の見所はその辺にいそうな悪ぶったバンドマンがテロ思想に取り憑かれて行くその変遷であったり、悪ぶってるだけの小心者の日和見主義者が内心ではクソビビってるのにカリスマの地位に固執して破滅して行く姿であったり、色々だ。

そのスプラッター描写も必見である。劇中特に語られてないのだが、ブラックメタル界隈の最重要バンド「エンペラー」のメンバーが同性愛者を滅多刺しにして殺した事件がある。これはヴァイカーネスの教会放火事件に触発されたものと解釈されている。特に意味もなく殺したのだが、ファシストらしい同性愛者への嫌悪思想が根本にあったのは確実だ。何しろ↑の「血塗られた歴史」では犯人のファウストことボード・エイトゥーンがインタビューに答えているのだから。映画では単にキチガイバンドマンが同性愛者を刺し殺すシーンとして描写されている。唐突に挿入されたエピソードで、普通なら見るべきところはないが後述するように恐ろしくリアルな場面となっている。

「マジにやっちまう連中」の中心でカリスマを気取るのも大変である。アーセスが「クチだけの悪党」だと、ヴァイカーネスが見抜くのは時間の問題であった。加えてアーセスはヴァイカーネスに支払うべきCDの売り上げなどの報酬の支払いが滞っており、二人には金銭トラブルがあった。ヴァイカーネスは憎しみを募らせアーセスを遂に殺してしまう。自宅に押しかけてナイフで刺殺。この殺人シーンも異常にリアルかつ残忍で、何箇所も何箇所も刺され、意識朦朧とする中で手で払い除けようとしたり、逃げようともがいたり、命乞いをしたり、とにかく刺される側の演技が素晴らしくリアル。↑の同性愛者が刺殺される場面も演技指導が行き届いていたのか笑、大変にリアルに仕上がっている。これをもってこの映画は18禁となったのだと思う大変教育に悪い映像で、先端恐怖症、血が怖い人など絶対観ない方が良いと思う。疾患が増悪するのは間違いないです。ただ、映画ファンは絶対観るべき(真顔)。

最後、アーセスが物言わぬ屍となってはじめて、彼が成功を夢見て悪ぶってただけのただの青年だったのだと観客は理解し、黙り込んでしまうと思う。それを思うと悲しく、残念で、例えどんなアホでも家族を失った者たちの悲しみはいかばかりか。色々考え込んでしまう。ここまで無残な最期を遂げなきゃならんほど、彼は悪いことをしたわけでもないのだ。

俳優の演技力に関してだが、なかなか良い。アーセスの神経質で小心そうな様子など実に素晴らしい。マコーレ・カルキンの弟(ロリー・カルキン)がやってるのだが、この常に眠たそうなペルシャ人並の不健康そうな顔は嫌でも麻薬中毒のアニキを連想させ、この役柄にマッチしていた。ヴァイカーネス役の人は最初ポッチャリしてて違和感があったのだが、短気で思い込み強くて人の話とか全然聞かなそうな感じなど観ているうちに違和感が全部消えて「よく本人まだ元気で生きてるのに許可したな。これを」と感心してしまった。

というわけで、人間の心の闇を描いた娯楽映画としても、教条映画としてもなかなか良くできていると思う。全然期待してなかったがかなり楽しめた。この映画に登場するブラックメタルのカリスマたちを真似て、今日も日夜青年たちが悪ぶって犯罪行為をし、精神疾患があるのに治療せず自傷行為を繰り返したり、自ら命を絶って音楽の神秘性を増幅させようと切磋琢磨している。それがカッコ良いと信じているのだ。それが恐るべきメタル、ブラックメタルなのだ。これは意味不明かもしれないがそういう愚かな若者達を描いた青春映画なのだ。

関連作として、「デトロイトメタルシティ」という漫画をオススメする。こちらは完全な秀逸なるギャグ漫画であるが、描かれているモチーフは全く同じで主人公はアーセス同様の日和見主義者。周囲のマジキチの狂人どもに翻弄される姿は抱腹絶倒間違いなし。ね、本来ならこんなギャグのようなお話なんだよね、きっとね。

ブラックメタル的サブカルチャー① デトロイトメタルシティ

また、関連作としてノルウェーの極右が世界一やばいことを実証したこの事件・・・を取り扱ったこの映画も勧める。

ウトヤ島、7月22日

これも精神状態が悪い人は見ないほうが良いが、映画ファンは絶対観るべき(真顔)。当時一緒に観た人は絶句して一言たりとも感想を話してくれませんでした。ま、当たり前やな。

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