「凶悪」
ものすごい映画だ。
これほどまでの暴力が…
日本が繰り出す陰惨かつ苛烈などん詰まりノワールとなっていた。
恐ろしいのは俳優陣の演技力。うらびれたど田舎ヤクザ…というかヤンキーと、それを金と知性で狡猾に操る黒幕。
彼らの犯罪は、いなくなっても誰も困らねえような底辺の老人に保険金をかけて殺すというもの。死んじまっても誰も泣かねえ。むしろ家族からも頼まれる始末。
殺し方も残酷きわまるもので、生き埋め、絞殺、酒をいっぱい飲ませて殺しちゃうなどなど。
この中で酒を飲ませて殺しちゃうというのが一見情け深いように思えるのだが、とんでもないとんでもない。凶悪なヤクザが老いた男を取り囲み、死ぬまで酒を飲ませるというのは言うは易しだが実態は残虐極まるリンチである。「セブン」の大食の拷問を100倍苛烈にした感じといえば良いのかどうなのか…これはやられる老人役、ジジ・ぶぅのなんともいえない哀れっぽい表情と立ち居振る舞いが加虐性を加速させる。ゲラゲラゲハゲハ笑いながら楽しげなゲームのように。すごく楽しそうにやるんだよね。リリー・フランキーとかピエール・瀧とかヤクザが。
おれはものすごくここで胸が悪くなったのだけど、なんでかというとすごく既視感があったのだよね。学校とかで。ヤンキーが気の弱いやつをいじめたりしてる時のあの楽しそうなノリあるじゃん?心底楽しそうにいじめる。自殺に追い込むほどに恐ろしい暴力を加え続ける。罪悪感など一切なく。バッタに爆竹巻きつけて殺すように。
おれとてそんな光景は散々みてきた。エンターテイメントなんだよな。弱いものをいじめるのは…
さて、この映画はもひとつテーマがあって、年寄りに対する我々のアチチュードである。弱くて醜くて臭くて面倒な生き物である。老人は。だがそんなのがうじゃうじゃいるのが我が国である。
小洒落た華やかな仕事だけして綺麗なお顔のにいちゃんねえちゃんに囲まれて生きて行こうなんて、そんな甘えはこの国ではもはや許されない。
事件も老人に対する殺人。主人公のジャーナリストの家にも認知症の母親がいて、これがまたうっとおしい。ジャーナリストは社会正義から事件の取材に没頭するが、家では老いた母をほったらかしにして妻に全部任せている。年寄りに冷淡なのは皆同じだ。我々はいずれ皆老いる…。暴力を加える側にも加えられる側にも容易になりうる。そんな恐怖の現実を突きつけてもくる作品なのだ。今年度ナンバーワンの恐ろしい映画である。