ベルセルク

シェアする

「ベルセルク」の作者三浦健太郎氏死去のニュースは大変ショッキングでした。個人的にはキム・ギドク死去と並ぶバッドニュース。もう「ベルセルク」の続きが読めないのかと思うと悲しさしかありません。

でもちょっと仕方ないかも。。と思う面もあります。この漫画、確か俺が小学生ぐらいからやってるんですよね。30年以上やってたんじゃない? 30年も経てば、人が死んでもおかしなことではないし、ある意味自然な流れともいえる。「ベルセルク」の欠点はストーリーが壮大過ぎたこと。広がりすぎた伏線を全く回収できそうにないのは誰の目にも明らかであった。まあ、だからこそこの漫画に皆が熱狂したのだと思いますが・・・

訃報を聞いて、「畜生、、、もうベルセルクを読むと辛い気持ちになるからもう二度と読まねえ、、、こんな面白くても未完だってんなら読んでも仕方ねえよ。だからもう読まない」なんて思った翌日にはもう1巻から読み直していました。

同じように、傑作だけれども作者が鬼籍に入って未完に終わるという漫画はいくつかあるんだろうけど、一番最初に思い浮かぶのは「ブラックジャック」だ。とはいえ、「ブラックジャック」は自分が産まれる前に終わった作品であり、未完だと知ったうえで読み始めたのでショックなどは特にない。つうか、「ブラックジャック」は「こち亀」的な一話完結型のお話なので、大河ドラマとは違う訳なので未完といっても大した問題ではない。見ようによっては「ここが最終話っぽいよな」と思えるお話も容易に見つけられる。(ブラックジャックが電車の中で居眠りして夢を見る回とか。8頭身のピノコがでてくるやつ)

「ベルセルク」はそうではない。お話はぶつ切り。完全なる未完だ。最終話っぽいお話も特にない。無理矢理見つけることはできるかもしれないが・・・(蝕が終わったあたり?ガッツが鷹の団を抜ける辺り?キャスカが正気を取り戻すあたり?・・・何かが違うと感じる)

まあ、考えようによってはいつまでも終わりそうにない話を1~3年に1回発売される単行本でちょこ~っとずつ読まされるのは大変に苦痛だったのも確かなので、この結末は仕方がないというか、ある意味想定内のことではあった。今後は残った作品を何度もたしなむという楽しみ方になるんだろうね。

改めて読んでいると、「ベルセルク」は骨の髄まで「男の子向けの漫画だな」と断言できる。で、不思議なのが女性ファンも多いということだ。ヒトコマヒトコマが絵画のような描き込みで、ちょっと普通ではないのは素人にでもすぐにわかった。この絵の完成度、漫画としての躍動感が最も高いレベルで融合したとんでもない作品だったのは確かである。本当に凄いものは男女や世代に分け隔てなく感動を与えるのだろう。それはわかっている。

でも敢えて言うとね、本当に「ベルセルク」は男の子向けの漫画ですよ。まあ青年誌で連載してたんで当たり前かもしれないけども。まず主人公のガッツ君ですが、骨の髄まで力の宗教を心棒する、ニヒリストなんですよ。中世?のヨーロッパ辺りをモデルにした仮想世界を舞台にしてるんで、令和の価値観でLGBTに平等をとか言ってたら心底サムいですんで、全然良いのですがね。

マッチョイズムなんて言葉が鼻白むほどの強者の哲学を持っています。このガッツ君は。

心底殺し合いが好きだし、口よりまず手が先に出る。子供でも女でも平気で殺します。男なんてゴミ扱いです。そこまで悪いことしてないよね?って人でも簡単に殺してしまう。殺人者です。マーダラー。「自分のことも思うようにできない弱いやつは死んじまえばいい」「蟻を踏み潰すの躊躇ってたら一歩も歩けやしない」なんてセリフを吐き捨ててました。

まさしく「力は使うためにある」を驀進しているのですね。かといって非人間的な殺人マシンかといえば違っていて、普通に母親の愛に飢えた孤独な男であり、本当は人情深い面もある。ただ、基本的な物の考え方が「弱肉強食」というだけで、それはこの冷徹な世界で生き残るために養われた仕方がないものです。ただし、令和の価値観でいえば人間として尊敬できる部分は皆無で、令和時代に日本で生きていたら、普通に監獄に入って坊主頭で農作業をしていると思われます。

元々傭兵団の親分に育てられ、否応なく子供のころから戦場に身を置いてきたわけです。少年兵士として。戦いのプロであり、戦場で相まみえた敵は問答無用で殺します。戦国時代の農民兵や野武士みたいなものかもしれない。相手にどんな事情があろうと。葛藤はするけどきっちり殺す。そうやって生きてきた。そんな男が仲間を殺した相手を追い掛け回して復讐しようとする、、、ストーリーの骨幹は結局これだけです。(そしてそれはついに果たせず先ごろ終わったわけです)その憎しみの描写はうっとりするほど美しい。これこそが人間という感じがします。

「ベルセルク」は普通に考えればファンタジーの王道で、異世界でチート級の強さを誇る非常識な主人公が無双する話、、、と言えなくもないが、カスみたいなラノベの異世界ファンタジーとは全く異なる。一見、荒唐無稽なんだが、価値観の基本は実に現実的なものなのです。↑で男の子向けだと書きましたが、これは本当に、ファンタジー漫画ではあるのだが「男の子がこの辛いばかりの人生で足掻き苦しみ、戦う過酷な姿」を描いた漫画だと断言できるのです。

この視点に立てば、描かれているテーマは普遍的です。

まずガッツは親のない環境で、戦乱と圧政に人々が苦しむ、人権や福祉など欠片もない世界に産み落とされる。現代ならば児童相談所が保護してくれるでしょうけど、この世界にそんなものはなく、周囲の大人に虐待されながら育つ。殴られ蹴られ、殺し合いを覚え込まされ、親の愛情など欠片も貰えず、時にはレイプされることもあった。食い扶持を稼ぐためと称し剣を握らされ、人間として大事なことは何も教えてもらえない。ジョージ秋山の「アシュラ」よりはマシなんだろうけど、親の庇護から離れた児童の過酷な実態をリアルに描いているのはこちらである。(こうして書いていて思い出すのは「ジョニーマッドッグ」だな。この映画も是非観てほしい)

そんな戦いしか知らぬ子が大きくなっても、結局戦場しか身を置く場所は無い。殺し合いは得意になってたくましくなるといえばなるが、孤独で、何の目的もない人生。そんな中、鷹の団に入って軍隊的な疑似家族を築くんだが、自分なりのより良い人生を歩むために脱退。でも学校出てないから他に何もできないし、社会に解き放たれてもやっぱり何の目的もない毎日を当てもなく彷徨うだけ。そのことに気がついて元鞘に戻ろうとするが、一度捨てた場所には大抵戻れない。これも人生における現実だと思います。(一度辞めた会社にまた入社できる人はほとんどいないでしょう)

ガッツ君は幼い頃に大男にレイプされたトラウマがあるため、恋愛には臆病です。唯一気を許し、体を重ねた女だけは大事にしようとする。これも非モテの現実を描いていると思います。モテないので、一度恋愛関係になろうもんなら徹底的にその女に執着し、嫌われてるしとっくに終わってるのに、延々ケツを追いかけ回す。漫画で描かれると何故かこれが純愛と捉えられるのですが、女からしてみればたまったもんじゃありません。徹底的に男性目線で男性に都合良く扱われるキャスカちゃんはかなり可哀想です。

でも、この漫画は徹底的に男のロマンを追求しますんで、女の涙などには頓着しません。そんなもんは娯楽にもなんない。取るに足らないものなのです。

ライバルにレイプされて、頭おかしくなっちゃったヒロインを正気に戻そうと頑張るガッツ君ですが、これを現実的に考えると、このカップルが上手くいく可能性はゼロです。女はレイプされた過去を忘れようと孤独の道を歩み、それまでの人間関係をシャットアウトしようとするでしょう。男の気持ちなんか知ったこっちゃありません。早く忘れたいのです。そんな女心さえ知ろうともせず、勝手に血みどろになりながらも頑張り続けるガッツ君は、令和の価値観に照らせば迷惑なストーカー野郎です。イケメンという補正があるにせよ、こうまで未練がましく付き纏っていたら逮捕されているし女にも嫌われているでしょう。

女は自分を愛してくれる男が大嫌いです。「キモい」「こわい」「頭おかしい」などと言います。あくまで、自分が合格判定を出した男からの寵愛を得ようと頑張る生き物ですから。キモオタの童貞野郎が追いかけ回してきたら警察を呼ぶ。ガッツ君に芽はありません。ガッツ君は一度、彼女を捨てて鷹の団を抜けるわけですけれども、普通に考えれば、女はそこまで引きずることもなく新しい彼氏をソッコーで作りますし、その男とネットネット一年中セックスしていればそれで幸せです。そういう生き物ですから仕方がない。「いつでもヨリ戻せるわい」と慢心しがちなのは男側だけで、女はサラサラそんな気はない。過去の男の記憶など上書き保存で抹消。本当に記憶の一欠片さえ残そうとしません。完全な忘却。そして、新しい男に尽くすのです。そういう生き物なんで。仕方がないさ!神は男と女を別々の生き物としてお造りになったのだから。(出典:「ツインピークス」)

そんな女側の事情は完全無視して紡がれるストーリーは、実に男目線で都合の良いものですが、結局ガッツ君はキャスカちゃんと結ばれることもなく終わったわけですから、この漫画はやっぱり現実的なのです笑(思うに、もしこの漫画が完結まで続いたとしても、ガッツ君とキャスカちゃんが結ばれて幸せになる、なんてラストがあっただろうか? そんな結末はあり得なかったと信じている)

現実には一度別れたカップルがセフレ程度には戻れたとしても、やっぱり結ばれて幸せになるってシナリオはほとんど無いわけでして。やはりここでもきっちり現実から大きく歩を外さない程度のところに落ち着いた訳ですね。

個人的にグッとくるのはロストチルドレンの章で、男尊女卑的で蒙昧な村人ばかりが住う村で、虐待を受ける少女だが、八方塞がりで逃げ場がない。負け犬の父親、その負け犬に犬みたいに使役される情けない母親。そんな両親の血を引いてるのだし、自分もそんなしょうもない大人になるだろうと人生を諦めてる女の子。

その前に突如現れ、血みどろの死闘を眼前で繰り広げ、「逃げ出した先に楽園などない。逃げた先にも戦場があるだけ。戦え。お前はお前の戦場で」と半分死にながら身をもって教えるガッツ君。入社3ヶ月の新入社員にモロに刺さるこのお言葉。何度でも読み返したい名シーンだ。

ブラック企業から逃げてもまたブラック企業に雇われるのが関の山

人生は、泣いて逃げて目を背けててもダメなんだって、なかなか学校や他人が教えてくれない普遍的な…つうか現実だと思うが、これをきっちり教えてくれるわけです。ファンタジー漫画なのに。俺もいつだったか親父に言われた。「男は人生で覚悟を決めて踏ん張らなきゃなんない時があるんだ」と。逃げ続けてもいずれ逃げ場がなくなるんだと。その時には振り返って飛びかかって敵に噛み付かなきゃなんないんだよ、と。人生において、これは確かに誰しもが一度はあると思うんですよ。逃げてばかりいちゃあ、自ら三途の川に行く羽目になるんです。闘わなきゃなんない時がある。それを思い出させてくれるんですね。この漫画は。

なんかどうでもええ…という読者の顔が見えるようですが。。

思うに、偽善者の巣窟のSNSでは、「辛いことがあったら逃げてもいいよ」「嫌なことは嫌だと言えばいいよ」「君のことをわかってくれない他人は全部相手にしなくていいよ」「逃げたくなったら逃げなさい。何も恥ずかしくないよ」との非現実的な甘い言葉で溢れている。これを鵜呑みにして逃げ回ってたら、本当に三途の川に自ら向かうことになる。「逃げずに戦え。向き直って敵を殺せ」と言ってくれる人は頭おかしい扱いを受ける。それこそが人生の本質だというのに。

戦の基本は勝てる戦いのみを戦うことだが、踏みとどまって闘わなきゃなんない時もある。それで負けたんなら仕方がない。戦って負けたんなら撤退してもいい。でも勝てそうな戦いなのに戦いもせず逃げる。そりゃあ間違ってる。というか勿体ない。そこで戦い、勝利できれば、見違えるほどに成長できるというのに。

甘い言葉を無責任に吐く偽善者どもは、逃げた先でどん詰まりになったとしても全く責任を取ることはない。そんな善人ぶりたいだけの他人の甘い言葉を当てにするのは間違っとる。自分にはちょっと厳しいぐらいでちょうどいい。死ぬにしても、戦って殺して自分が一番最後に死ね!

そんな訳なんですが、「ベルセルク」は人生はもがき、足掻き、戦い続けるしかないんだってことをガツンと教えてくれる良い漫画で、この際ストーリーは完結しなくてもそれはキッチリ伝わったのでもう役目は終わってると言える。誰あろう、作者が一番無念な筈だ。読者は黙祷し、ひたすら感謝の念を故人に伝えるのが正しい態度といえるだろう。

レストインピース。

↓この記事が面白かったら拍手ボタンを押してください
web拍手 by FC2

↓管理人へメッセージを送る↓

お名前

メールアドレス (返信欲しい方のみ)

フォームを入力したら「確認」にチェックを入れて「送信」ボタンをクリックして下さい。

確認