【書評】戦争は女の顔をしていない(コミック版)

シェアする

偶然書店で見かけ、「ぇえ”?!」と素っ頓狂な声をあげてしまった本だ。原作はノーベル文学賞作家のスヴェトラーナ・アレクシェービチの名を有名にした代表作ともいえる。その漫画化だ。

もちろん興味を惹かれて手に取ったが、そこにはガンダムの富野由悠季監督のコメントがまず目に入って来る。
「この原作をマンガ化しようと考えた作家がいるとは想像しなかった。瞠目する。原作者の慧眼をもって、酷寒のロシア戦線での女性の洗濯兵と狙撃兵の異形をあぶり出した辣腕には敬意を表したい。それをマンガ化した作者の蛮勇にも脱帽する。男性の政治家と経済人たちの必読の書である。女たちは美しくも切なく強靭であったのは事実なのだ。」

蛮勇…。まさにその通り。なんたる蛮勇。考えられぬ蛮勇…

蛮勇の二文字に完全にシンクロし、つい買ってしまった。帯に蛮勇の文字を見つけなければ多分買わなかった(笑)。表紙の絵柄が何とも言えぬ萌えアニメ系の不快な代物で、アラフォーのオッさんには到底受け入れられない感じだったのもある。富野監督も原作はリスペクトしているようだが、たぶんこの漫画化は読んでいないと思う(笑)。

この本の表紙を見てまず思い出したのは、「白い魔女」というタイトルの、フィンランドの大祖国防衛戦争である「冬戦争」をモチーフにした漫画作品だ。アレも蛮勇と呼ぶにふさわしいが、読めばわかるが「勇」の文字はこの漫画には必要ない。ただただ「野蛮」「下品」「センスなし」との罵倒用語の品評会がちょうど良い。フィンランドでたった一人で数百人のロシア兵を狙撃して殺した伝説的兵士シモ・ヘイへを萌え女キャラに仕立ててしまった、歴史にクソ塗りたくっただけの駄作だ。「表現の不自由展」にでも置いといてもらいたいものだ。全く嫌である。やればいいというものではない。

☝️のそれと絵が似てるんだよな、これも。
違うのかもしれんがオッサンには見分けがつかん。どっちも児童ポルノめいた変態くさい絵である。嫌な記憶が自然と蘇ってしまったわけですよ。

やればいいというものではない。
漫画化するのを反対はしないが、もう少しまともな絵を描ける作家にした方が良いのではないか? 第二次世界大戦の90%は独ソ戦を意味する戦争であり、この戦いで失われた桁違いの人命、塗り替えられた世界地図、歴史に与えたショックを思えば、太平洋の戦場は裏方の局地戦に過ぎない(文字通り左手でノックアウトされたのが我が皇国日本である)。萌え絵で娯楽に仕立てるのは実に罪深い行為である。この漫画をロシア人やドイツ人が読んだらどう思うのか?知り合いにロシア人がいたとしたら、彼や彼女ばかりでなく、その親や祖父母にまで読ませられる内容なのか?そこまで配慮して作品作りをしてもらいたいものである。今はネットで簡単に作品が流出するのだから、なおさら気を遣ってもらいたい。まさに蛮勇と呼ぶにふさわしい。つうか愚行である。

そんな感じで不信感タラタラでムカつきながら読んでいたが、内容はまあそこまで飛躍したおかしな内容ではなかった。原作はインタビュー集のような、ドキュメンタリーのような内容で、堅苦しい情景文とかはぶっ飛ばして当時女兵士だった婆さん達のお話を読むだけなんで、大変に読みやすいし、当時の兵士達の暮らしが活き活きと浮かび上がってきて良い感じである。読みやすいし、訳した人間が只者ではないのもすぐ知れる。オススメしたい本である。

この漫画化は、基本的に婆さんがたのインタビューがモノローグみたいに使われていて、その背景を可愛い萌え絵が躍動するという感じである。「この世界の片隅に」みたいな感じを狙ったのかもしれない。原作の挿絵付きショート作品集のような趣なんで、少なくとも原作を破壊したり歴史にクソ垂れてる訳ではないので良かった。読んでると喉の奥が熱くなるような、ウェットで悲しい物語だ。それもこれも原作が非凡なのでこうなったわけだが。

まーそんなわけで、絵がキャッチーすぎる以外のアラは特に見つからなかった。こんな絵柄ではあるが、割と原作に忠実な内容である(笑)。案外キッチリとした仕事だったので拍子抜けもした(笑)。

散々前置き長く書いておいてそんな感じだったのだが、今更ながら言いたいことがある。
これは原作にも言えるけど、この本は独ソ戦のA面しか描かれていないということだ。

回想の中に蘇る独ソ戦は常に黒焦げの鉄と灰の世界である。
もちろん女兵士の悲哀にスポットを当て、彼女達が単なる記号ではなく、実は心を持つ生きた人間だったと証明した…いう意味でこの本には価値があり、今後何十年も読み継がれて行くことだろう。

ただし、独ソ戦とホロコースト、残虐なパルチザン戦は切っても切れない要素。日本の8月に都市空爆や核兵器が描かれないと変だろう。沖縄戦に住民玉砕が描かれないと変だろう。それと同じだ。

独ソ戦は普通の戦争とは違う。イデオロギーの戦争であり、お互いの全存在を抹消し尽くすのが戦争目的だった。
A面が正規軍同士の戦いを描くのだとしたら、B面では無数の罪なき人々が生まれ故郷を追放され、或いはコルホーズの内庭で銃殺される場面を描くだろう。

鉄条網で囲まれただけの荒野でドイツ兵に穴を掘らされ、310万のソ連兵捕虜が餓死に追い込まれた事実はこの漫画では描かれていない。

ソ連パルチザンとナチス親衛隊が何千もの村々を村人もろとも焼き払った事実は描かれない。

絶滅収容所の恐怖も描かれない。

戦争のどさくさに紛れて、NKVDが膨大な数の少数民族をのきなみ強制移住させたことも描かれていない。

故国解放のために戦ったウクライナ人やバルト三国の人々が、戦後スターリンの命令で東の果てに追放されたことも描かれていないし、スターリングラードで味方に銃殺されたロシア兵が10000人以上いたことも描かれていません。

ドイツにもソ連にも似たような懲罰大隊があって、主力の露払いに地雷原に突っ込まされたことも描かれていません。

ドイツ国防軍とナチス親衛隊が占領地でとんでもない恐怖政治を敷いたことも全く描かれていない。これには驚かされます。

おそらくB面はこっちで描こうとしたんじゃないかな。

「ボタン穴から見た戦争」

同じ作者のよーく似たドキュメンタリーのようなインタビュー集だ。これはまさに上で書いたような「B面」が描かれている。

物事のA面だけをみて、勝手にドイツ軍に憧れたりしてるオッサンがかつては多かったように思います。今はそんなにいないと信じてるけどね。ナチスの軍服や戦車をカッコいいと思ってしまいそうになった時、何度でも読み返すべき良書だ。独ソ戦とは何だったのかがここでは描かれています。

漫画化するなら「B面」もきっちりやってくれよな。この萌え絵でな。アキバで18禁コーナーに置かれることだろう。だから戦争を萌え絵にするのはダメなんだよ。わかるだろ?

↓この記事が面白かったら拍手ボタンを押してください
web拍手 by FC2

↓管理人へメッセージを送る↓

お名前

メールアドレス (返信欲しい方のみ)

フォームを入力したら「確認」にチェックを入れて「送信」ボタンをクリックして下さい。

確認