ティエリー・トグルドーの憂鬱

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2016年のフランス映画。
最近映画はちょいちょい観てるんだが、一文字たりとも感想書く気にもならない駄作ばかりにひっかかり、ブログの肥やしにもならない始末だがこれは違う。
おれも中年無職で就活するという屈辱を何度も味わったので、この映画で描き出される「憂鬱」はめちゃくちゃ理解できる。なぜこの映画の主人公がこうなってしまったのか理解できるのだ。自分も10年後に失業したらまたこうなるかもしれないとの恐怖や不安をありありと感じた。


主演のヴァンサン・ランドンの演技がまず見事。ストーリーは51歳でリストラにあったおじさんが再就職するというだけの話なんだが、終始身につまされる内容で、フランスの中年就活事情が驚くほど日本に似てるのにも驚かされる。逆の意味でカルチャーショックだ。ひょっとして監督は日本の国をモデルにしたか、ひょっとして自分自身も日本人なんじゃないかと思ったぐらいだ。フランスが日本に似てるというのはよくわかった。

 

冒頭からして壮絶な既視感。技術研修を受けて資格を取っても「結局、実務経験がないと採用されないんですよ〜」と職安(みたいな係員)の人にあっさり切り捨てられてしまう。「4ヶ月もかけて取った資格なのになんだよそれは、最初から言えよ」と怒るおっさんだが「そうっすよね〜、お気の毒です」と言われて終わりというなんともムカつく展開(笑)。

ある場面では、スカイプで面接してたら
「当社はヴァージョン8を使用していますが、ヴァージョン7しか経験がないですか、、、はー、そうですか、、、給料や地位が下がるのは受け入れられますか?ん?もっとはっきりと答えて貰えます? あ、あと貴方のために言うのですが、履歴書の書き方がちょっとひどいっすね、、、自己PRからあなたが見えてこない、、、失礼、気分を悪くしないでくださいね。…では面接の結果は二週間後に。あ、大事なことなので最後に一つ。採用の可能性はかなり低いかと…ゼロではありませんが。では他の人も面接しなければならないので失礼します」
終始噛み合わない会話。

次に職安(みたいなところ)で面接場面をビデオで見てもらってフィードバックを貰う場面。
笑顔が足りない。姿勢が悪い。自信がなさそう。目がおどおどしている。服装がラフすぎ。声が低くて聞き取りにくい。質問に答えるのが早すぎて考えてる感じがしない。……と袋叩き。こう言う場合、「皆さん色々指摘してくださってありがとうございます!」と死ぬほど笑顔で感謝しなきゃなんない。映画で主人公はそこまでしないが、日本の国の場合はこの辺までやってやっと人並み。ムカつくなんてもってのほかだ(とみなされるという話)。

屈辱の毎日。決まらない仕事。なのに住宅ローンはまだ5年も残ってる。貯金はどんどん減ってる。あと9ヶ月で失業給付は減額に…息子は障害を持っているが学校にも行かせてやりたいしまだまだ金がかかる。大黒柱としての務めを果たさねばならない……

この手のお話の場合、就職が決まればハッピーエンドで終わりだ。日本のバカ映画なら例外なくこうなる。しかし現実は仕事を決めるよりも決まった後のほうが辛い毎日が続く。

おっさんも仕事内容を選んでられないのでスーパーの警備員の仕事を始める。これは一日中防犯カメラを見つめて万引きの現場を見つけ出し、ひっ捕らえて身分証をむしり取って金を払わせるというしょっぱい仕事だ。いわゆる万引きGメンか。そういう言い方をするとマシな仕事に思えるが、実際にはレジ係の女性さえ監視し、不正行為を働けばその場でしょっぴく。同僚でさえ告発せねばならない。嫌な仕事だ。此の手の非人間的な仕事はある種の才能がいる。おっさんはあまりその才能に恵まれていない。罪悪感と憂鬱は募るばかりだ。

ある日、勤続20年のレジ係がおっさんの仕事によってクーポン券をちょろまかしていたことが発覚。女はその場で責め立てられ、解雇されるのだがその日のうちに店内で抗議の自殺。本社から偉い人が来て、スタッフを集めて「解雇の後の自殺だから僕たちにも君たちにも何の責任もないし〜〜」とうだうだと釈明。ほとんどの社員は自分を納得させて明日からも普通に仕事を続けるが、おっさんは……(完)

というお話。ひたすら憂鬱になるばかりで楽しい場面は一つもなし。社会は憂鬱だが家族に支えられつつ、けれど家族を守るために心を殺さねばならない大人の男の悲哀が描かれ、フランスでは100万人を超える動員数を記録。主演のヴァンサン・ランドンはカンヌで賞をとった。

フランスは男女同権でリベラルなんじゃなかったの?とひたすら疑問である。これは日本と変わらんよ。男ばかりが重い責任を背負わされ、屈辱に耐えながら働き続けなきゃならない。世の中が男女同権に近づくほど男は働きにくくなり、それは仕方がないのだけれど、そのために養われる立場の子供や女にしわ寄せが行く。この構図を理解しているフェミニストが何人いるのか甚だ疑問だ。あまり男をいじめると必然首が締まるのは女や子供である。この映画は家族の存在がおっさんの唯一の救いであり、家族を愛するからこそ奮闘し、そして社会に傷つけられて行くどうしようもなさがひたすら悲しい映画だった。実際はどこにも救いがない。

とはいえ、日本の中年就活者を取り巻く環境はこの映画で描かれる以上に過酷なのは確かだ。失業給付なんか、日本では申請して受け取るまでに3〜4ヶ月かかるし、満額貰っても支給期間は半年未満だ。人によってはもっと短い。給付を受けるためには雇用保険を何ヶ月支払っていたかも条件となるんで、早期離職した場合は当然1円も貰えない。常勤でさえこれなんだから、非常勤はもっと過酷。無職は基本死ぬしかない。その無職をあてにするしかない女や子供も共倒れだ。そうならないために女も過酷で給料の安い仕事をしなければならないし、売春業者が喜ぶことにもなる。フェミニズムとは男に厳しく女に甘い社会を作れば良いというものではない。Twitter産の人権警察官はそれがちゃんとわかってるかな?

男に頼る生き方をするのが悪いのよ!と叫ぶ人はまさかいないと思うが、自分がもし妊娠し出産を数ヶ月後に控えるとしたら、その時あまりに浅はかな意見だったと気がつくだろう。 男の首を締め上げることで女が働き続けねばならないとしたら、少子化になるのは当然の話だ。男尊女卑社会では子供はじゃんじゃん産まれる。グローバルスタンダードが生み出す矛盾にいち早く気がついて欲しいし、議論を始めるのはそのことに気がついてからのほうが建設的だろう。まあ「子供なんか産まれなくてもアタシは構わないワ。平等な社会の実現のほうが先なのヨ」とみんな思ってるんだろうけどねえ。。。

若い人はそれでいいんだろう。でもまだまだ男だけが働いて女は子育てに専念してる家庭はむちゃくちゃ多いし、我々の上の世代は一馬力が当然でダブルインカムは邪道だと思う人がすっっっごい多いんすよ。若い人は若い人としか話す機会がないようで、この辺の話が一番わからないみたい。実際は中年〜高齢層のほうが人口は多いし、彼らの価値観も良いか悪いかは別としてまだまだ残っているのだ。インターネットばかりしてるとこの辺の話が一番理解できないんだろうな、、、

権利と義務は表裏一体なんで、権利を叫ぶなら義務も追わなきゃならないんだよ……? お嬢ちゃん、理解できそうかな? そんなに自分を理解してもらいたいなら相手のことも理解しようと努めようや。それが真の相互理解やろ?

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