The NET 網に囚われた男

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「殺されたミンジュ」で一人八役を演じたキム・ヨンミン。今回も恐るべき怪演…

前作「殺されたミンジュ」で主におれのハートをがっちりと掴んだキム・ギドクの新作だ。多忙でなかなか時間が作れなかったがようやく観れた。

これは例によって素晴らしい会心の一作だ。

キム・ギドクは新作だすたびに「うほっ、今回のがギドクの最高傑作だっぺよ…!」と毎回すんなりと思わせるのだからすごい。まあ、スマホ依存症のワタシとしては、映画鑑賞中にスマホをいじらないでいることが最近はほぼ不可能なんだが、この映画に関してはスマホの存在を忘却した…!例によってすごい作品だ。

ストーリーは単純。北朝鮮の漁師がエンジンの故障で南に行ってしまう、、、というだけの話。よくニュースで見るアレである。南に行った漁師がどうなるのかまではニュースにならないが、この映画の中では漁師は韓国諜報機関に拘束される。そして尋問と拷問を受け「私はスパイです」と自白させられたりする。この尋問の過激さは「殺されたミンジュ」を引き合いに出すまでもない。韓国暴力クオリティが存分に発揮される。ガラスの灰皿がいいあんばいに凶器となる。いつもながら素晴らしい暴力描写である・・。

尋問官として登場するのが、「殺されたミンジュ」でも一人八役を演じた芸術的キチガイ面のキム・ヨンミン。短気で粗暴ですぐに手が出る。しかも陰険で卑怯。見事なまでにステレオタイプな悪役を演じきったが、その狂気の影には大韓民国政府に洗脳された、忠実な国家の親衛兵という側面もある。頭から血ダラダラ流しながら「ウリナラマンセ~♪」とナショナルアンセムを歌うキチガイ演技は是非観てほしい。素晴らしい俳優だ。日本にはこういう奴が少ない。

自白を強要されたり、亡命を勧められたり、二重スパイを持ちかけられたり、韓国政府はろくなことしないのだが、すべて北の独裁国家から人民と国家を救うという正義感に裏付けられているのでなおたちが悪い。「北の人民は独裁国家に洗脳されている。可哀想な彼らを一人でも多く救うのが我らの使命」なわけである。こんなセリフ、日本人も言っているだろう、、、決して他人ごとではない、、、

金があれば幸せなのか? この映画は政治映画のようでもあるが、これまでのギドク作品同様に社会派の側面もある。金がなくても家族が国で待つ漁師は断然北に帰りたいのだが、南の官憲からすれば「あんな国に返すわけにはいかない」のである。漁師に家族がいることなどみんな忘れている。貧しくても幸せかもしれないという可能性を一方的に排除しているのだ。資本主義社会に暮らす人々は貧困の中にささやかな幸せがあるかも、などとは考えられない、、、これはおれもそうだ、、、それって洗脳なんじゃねえか?

一方的に可哀想だの、被害者だの、洗脳されてるなど言ってて、それで南北の融和が進むだろうか? 必要なのは理解である。韓国は物質的豊かさを頼りに、北を見下しているのだ。北から来た漁師にはそれがわかる。物は豊富だが、人々は決して幸せではない。

漁師は純粋な気持ちで北へ帰ろうとし、どうにかこうにか帰還できる。これは意外な展開だったが、待ち受ける結末は意外でもなんでもない。北朝鮮版KGBともいえる国家安全保衛部が待ち構えていて、今度は北から取り調べを受けるのである・・・・その取り調べの光景は南のキチガイ、キム・ヨンナムと匹敵するほど酷いのだ、、、どっちにしてもクソ。この取り調べの光景は意図的によく似せてある。演出も見事だ。

サスペンスも謎が残っていて良い。南で「新宿スワン」の沢アナ・・失敬…沢尻エリカのようなトンズラかました売春婦をシバくヤクザ二人だが、後に安全保衛部の取調官として登場するんだが、これはいったいなんだったのだろうか? 売春婦も北のスパイということなのかな? そういうハニートラップだったのだろうか? なんでわざわざ身内にハニートラップかけるの…? これは謎が残る。。。とりあえず売春婦役のお姉さん、プリップリのスタイルで鼻血出そうだったけどね。。。おれなら五秒でひっかかるな、、、、ハニートラップ。。

ただ、今回、肝心の漁師や、脇を固める護衛官の青年のキャラクターがイマヒトツ煮詰められておらず、言動に疑問符がつくこともしばしば。いちいち書かないけど、漁師は実は北の特殊部隊出身者で、それでスパイだと疑われてるんだが、そんな中であんなメッセンジャーのような役目を引き受けちゃ駄目でしょ、、、あれじゃスパイ認定されるの当然だと思うし、北に帰る時もドル札と英語でくっちゃべる熊のぬいぐるみを持って帰るなんて、あまりにも軽率だろう。それを勧める護衛官もおかしい。これには違和感が残った。それに、この護衛官は命令違反をし過ぎだと思うし、こんなに命令にいちいち盾突く奴は、諜報機関のような場所ではすぐ干されてしまうんじゃないだろうか? まあ、この辺の無理やりかつ強引な話の持って行きかたはいかにも韓国らしくて、あんまり指摘するべきとこじゃないのかもしれん、、、文化の違いだろうか? これ以上は言わないでおこう。(多分、観た人はおれのいうこともわかると思うのだが)

ラストは、かわいい子供が英語で食っちゃべる新しいぬいぐるみより、母親が何度も縫い直したつぎはぎだらけの汚いぬいぐるみを抱きしめて笑顔で幕。ストレートな表現だ。金が幸せとは限らない。いつの間にか、我が日本ではそのことを主張する知識人はいなくなったな、、、

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