虐殺器官ー映画評

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これは原作小説はいったい何年前に読んだんだか、もう忘れちゃったぐらい昔なんだけど、伊藤計劃という早逝の作家さんの代表作だ。氏はこれを含め、オリジナル小説は数本しか発表していない。作風としては、現実の戦争の悲惨さと、攻殻機動隊チックなSF要素をミックスしたストーリーで、短編も含めて氏の作品はだいたい読んだけど、どれもこんな感じだ。

外国舞台の外国人主人公の作品が多いので、今考えてもスタンスに学ぶところは多い。SF要素を大胆に取り入れることで、現実の過酷さを描いているのに、政治的になりすぎず堅苦しくなっていない。そこが読みやすさの秘訣だろう。

アニメ絵に陳腐化された原作。こんなふざけた髪型の軍人がいるか

ただ、いつしか「虐殺器官」も「ハーモニー」も「屍者の帝国」も、表紙がアニメ絵になったりとかしだして、(これは氏が亡くなった後である)映像化するにあたってはアニメ化が大前提のようになってしまった。まあストーリーや世界観を考えればアニメ化するしかないのは理解できるが、日本の昨今のアニメ事情を考えれば、紋切り型無個性の罠にはまるのではないか、、、と映画化の話を聞いた時もかなり不安であった。

この映画はその心配がある程度的中する結果となっている。どこかでみたようなオタクアニメ的な絵柄、いつもと同じ声優、緑のライトを多用したブリーフィングルーム、オペレーターはエヴァンゲリオンみたいな女の子、といった具合で無個性極まるいつもと同じような「いつもと同じ」感じなのだ。これはとても残念だし、最初は全然ノれなかった。上質の肉でレトルトの牛丼を作ったかの如し、無個性大量生産アニメの末席に連なる駄作になっちまったんじゃないか、、、、、と。

キャラは確かにひどいのだ。
アメリカ軍人なのに、日本語喋るし。しかも声優はどこかで聞いたようないつもの人たち。ゲームの「メタルギア」みたいな要素もあるからわざとなのか、スネークとおんなじ声優のキャラもいるし、あまりの無個性と新鮮味の無さにげんなりだ。主人公の髭一本生えていないツルッとしたガキみたいなイケメンヅラにはほとほとウンザリさせられる。動揺すると黒目がお米粒ぐらいに小さくなってプルプル震えるところとか、いつもいつもこうだしウンザリする。もうちょっと新鮮味というものを重視して演出してほしかったなあ、、、、と思う。

しかし、ストーリーは非凡なる原作のためにワクワクしながら見れるし、虐殺描写なども超残酷で素晴らしい。戦闘シーンも理不尽さ丸出しでサイコーだ。それに舌を巻いたのが、舞台となるプラハの街並みだ。これはおれも一度行ったからわかるのだが、かなり忠実に再現されている。地下鉄のクソ長いエスカレーターや、車内の吊革や座席の配置、色分けなど、近未来の話なのに現在のプラハそのものに再現されていて、これは素晴らしいと思ってしまった。車内アナウンスなんかもちゃんとチェコ語だしな。最近はキャラクターなんぞよりも建築物や乗り物や風景など、世界観にばかり注目してしまうのだが、これはプラハに行ったことがある人ほど楽しめる仕様だ。

そんな高度に再現された世界の中を、非現実的なツラのイケメンと美女が日本語で芝居をする。これにいかに早く慣れるかで随分変わってくると思う。個人的には言語学者が人間の脳の中に潜む殺戮の本能を「虐殺の文法」なる特殊な韻を踏むことで引き出す、、、、という設定ゆえにもっと言葉には気を遣って欲しかった。有名声優なんか全然この世界観にはマッチしていないと思った。断然英語で話す場面は英語にすべきだったし、チェコ語も然り。ジョン・ポールがどこかで聞いたような知能犯的悪者の声優でくっちゃべるのは全然ノれない。「それ、日本語で言っちゃうんじゃねえよ、、、」と何度も突っ込んでしまった。ハヤオたんが声優を嫌うのってわかる気がする。自分の信念の仕事を紋切り型に堕落させちまうんだもんな、、、でも日本のヲタはいつも同じ声優じゃなきゃ満足できないらしく不満ばかり言う。「棒読みセリフ萎える」とか何とか必ず言ってるもんな。この映画に言うことじゃないかもしれんがこの意味不明な声優崇拝の文化をまず破壊してほしいよな、、、、まあ北米版買って英語吹き替えで観れば、この不満は全部解決するんだが、、、、、

原作はほとんど忘れていたんだけど、世界中で頻発する虐殺の主導者、ジョン・ポールは、人間の虐殺の本能は、食料の少ない時代に人類の数を減らすことでより望ましい個体を生かすためのセキュリティとして存在する、、、と主張するわけだけど、ああ、伊藤計劃氏はホロコーストのメカニズムをちゃんと勉強していたんだなあ、と本当にその死を惜しいと思えた。これはヒトラーが駆りたてられた生存圏(レーベンスラウム)の思想、スラブ人奴隷化政策の根底にあった部分で、まだまだ食糧生産が少ない時代に信じられていた思想だ。「緑の革命」が起こる前、このまま人類が増え続け、ユダヤ的コスモポリタリズムで劣等者や下等人種にまで食料を与え続ければ、支配人種が脅かされて餓えてしまう、、、という危機感に根ざしたものだ。ヒトラーは食糧の少なさ、平等主義を唱えて強者が餓えることを避ける、との名目で「ユダヤ国家」の破壊と、スラブ人種の奴隷化、東方生存圏の植民化を正当化したと言うわけだ。これはティモシー・スナイダーも指摘していた部分なんだが、この映画もそこをきちんとついているんで舌を巻いた。やはり原作が非凡ゆえにこの映画もよくなった、と言えるだろう。

また、麻薬漬けにされた少年兵士が、化け物じみた米軍の無人兵器にミンチにされる映像もガンガン再現されており、SFでありながら現実のやるせなさも秀逸に描いている。生存に駆り立てられて他民族を虐殺する第三世界の人々と、ナノコンピューター制御によってあらゆる痛覚を消し去って任務に非情な化け物に仕立てられた米軍兵士たち、彼らの間に差はいくらもないのだ、という控えめなメッセージ。人間みな平等。人間みな同じように価値はなし。
ガキっぽい絵柄だけど大人向けの作品である。

ゲリラと最先端特殊部隊の戦いを描いた「ブラックホークダウン」なども関連作。原作では「プライベートライアン」のオマハビーチを延々リピートで再生しながらピザを食うシーンがあったと思うが、それは再現されていなかった。残念。

とりあえず、とかく夢やチートに逃げ込みがちなアニメで、これほど現実をしっかり描いた作品はないと思うので、いつもと同じ声優やオタクっぽい絵柄で陳腐化しないでほしかった。小林源文が作画を担当して声は本物の軍人を使えばいいじゃん(笑)。


世界観を完全にはき違えたダサい表紙。


こっちのほうがまだクールだ。

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