遮光ー中村文則

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最近のマイブーム、中村文則氏の二作目にあたる小説だ。氏が24〜25歳の頃に書いた小説なのだという。2時間で読み終わった。野間文芸新人賞受賞作。

普通なら、人生で一番忙しい時期だ。
青年諸君は勝利か滅亡かの闘争に全存在をかけて挑まねばならない時期である。この戦いに敗れるか、逃げ散った者を、我々の理想社会は決して受け入れない。

そんな時期に働きもせずに小説書いていたというのだから、普通にかなりグロッキーであったはずである。まともな精神状態ではなかったんじゃないだろうか?

この小説の主人公の何が何やらわからないものに追い込まれまくって、かなりテンパっている様子には、そんな背景があったんじゃないかと邪推する。

これはデビュー作、「銃」と同様に周囲に隠してこっそり自分の闇を持ち歩くシリーズだ。今回は死んだ恋人の指である。

日本軍の通例では、前線で戦死した兵隊の死体を持って帰れぬ時、戦友は指を切り取って炙って骨にし、遺骨の代わりとして邦で帰りを待つ家族の元に持ち帰った。この場合、指を持ち歩くのは美しい戦友愛である。しかし、中村文則氏の小説の中では、主人公のテンパった精神状態と相まって、恋人の指を持ち歩く行為は、自分の中の陰鬱を持ち歩くことと同義であり、主人公は、その陰鬱を周囲から隠しながら虚言ばかりを吐きつつ生きざるを得ない。同じ行動でもところ変われば意味さえ変わる。因果なものだ。

色々とシンボリックな設定ではあるが、これはひとえに筆者の自浄のために書かれた小説だと思っていいと思う。しかし、その読みやすさは相変わらずで、とてもテンポが良い。

ストーリーはクソ単純だし、例によって脇役キャラの描き方はクソ適当で手抜きの仕事だ。しかし、主人公の内省というか、心の小宇宙はまさに偏執的でイかれていてすごく良い感じである。狂った思考回路だし、ひとかけらも共感できるものがないのに、こうまでスルスルと読めてしまう、その読みやすさは流石だ。例によって地味なストーリーなんだけど、表現や描写が人並外れているからか、緊迫感は凄まじく、カミュの「異邦人」のように太陽が禍々しい小道具として登場する。そして、秘密を抱える主人公の元には「罪と罰」の刑事さんのような、主人公の陰鬱に気がつき近づいてくる者がいて、主人公は陰鬱の重さに耐えられず自爆する。

はっきり言って「銃」とほとんど同じ話だ。主人公に虚言癖があるところも同じ。作者もそうなのかもしれん。(作家というのは虚言を吐くのが仕事なんだろうけど) というか、主人公のキャラ設定やオチまでほとんど同じなので、デビュー前に書き溜めた作品の一つなんじゃ・・?と勘ぐってしまう。

中二病とご都合主義も相変わらず。(主人公はケンシロウか?というぐらいに喧嘩が強く、女にも勝手にモテる。まるで漫画である)

遺体安置所で対面した恋人の指を持ち去る下りは凄まじい緊迫感で、一気に読ませる。

相変わらず、女の描き方がクソ適当だが、若気の至りというか、もうそういうものなのだろう。この作者にとっては、女は単なる小道具のようだ(スピルバーグみてえだな)。

頭のおかしい奴の狂った青春と愛の物語だ。こんなの凡人には書けないわ〜。
遮光 (新潮文庫)

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