生きている兵隊ー石川 達三

シェアする


これはお客さんに勧められて読んだのだが、想像以上に面白く、かなり熱中して読んでしまった。文量もちょうどいい。こういう小説をおれも書いてみたい。


舞台は日中戦争開始後の中国大陸が舞台で、とある歩兵聯隊の様々な兵士の目線で、進軍して南京攻略後から、その占領支配までを描く。

著者の石川達三は従軍記者として昭和十三年に南京へ行き、そこで見た荒廃した都市の風景や見聞きした情報を頼りに大胆な創作を施し、わずか十日で原稿用紙三三〇枚を書きあげ、翌月には中央公論へ寄稿。数々の伏字や修正が為されたが、それでも軍の検閲にひっかかり、内務省によって反軍的な内容として雑誌の販売を禁止される。

雑誌の販売禁止だけに留まらず、石川達三は警視庁へ引っ立てられ、執行猶予付きとはいえ懲役刑の判決を受ける。既にこの頃、我が国の言論の自由は死んでいたのである。

さて、その内容はといえば、中国の地図がないのですごく地名に四苦八苦させられるが、これが素晴らしい内容なんだ。まさにいま、我々が読んでちょうど良いと思うようなバランス感覚で南京攻略戦やその占領支配までを、現場の末端兵士目線で率直に書いている。

この手の戦史本は、天下国家目線で語られることが多いと思うが(ちょうど半藤一利のような)、これはあくまで下っ端兵士の目線で物語調に描かれているので取っつきやすく、参考になる。

戦闘にも参加する片山従軍僧
元来下品で生にも死にも無頓着な笠原伍長
医学部卒業のインテリだか、女を殺すことに快感を覚えてしまう近藤一等兵
勇敢な中隊長の古谷中尉
落ち着いた、物分かりの良い小隊長、倉田少尉
神のごとき尊敬を集める西沢聯隊長

などなど、、他にもいるけどこの辺りがメインキャラクターか。聯隊付炊事班の武井上等兵なども、強烈な後味を残すキャラクターだった。

なんというか、この時代の日本人と今の日本人は、やはり連続性はないんじゃないかなあ、と思う。『彼ら』は我々より遥かに勇敢で、死を恐れず、滅私奉公するが、野蛮で、下品で、好色で、好戦的である。自分の命をあまりかえりみない姿勢は、捕虜や民間人をたやすく殺すという蛮行へと容易につながる。

日本軍は軍規厳正……このイメージは、現代でも信じられているけっこう強めのプロパガンダだが、実際の現場は軍法も国際法も形骸化し、日本人らしく「そりゃ、ほんとはそうなんだけど、んなもん! みんなやってるからいいんだよ、てやんでぇ!」という感じなのだよね。これは今の日本人や日本の企業風土と通ずるものを感じたけれども。

日本軍は補給を軽視した、と言われるのだが、日本軍の戦い方として、身軽な兵士がどんどん前へ出て行き、補給物資を積んだような荷車や足の遅い輜重隊はとりあえずほっといて後からついて来させる。前線の身軽な兵士達は迅速に前へ出て中国兵を蹴散らし、村を襲って焼き払い、略奪を役得として食べ物や家畜を強奪して急場をしのぎ、補給隊が追いついてくるまではそのようにして現地徴発を繰り返しながら大陸を練り歩いた。もちろん、略奪の際にはクーニャの強姦も役得だったし(「生肉」がクーニャを表す隠語だったらしい)、戦闘が終わったら兵隊たちはみんな「生肉」を探しに戦場や付近の村々を彷徨いていたらしいし、上層部はそれを黙認していたらしい。
兵隊が食う飯もないのに敵の捕虜を連れ歩けるわけもないから、捕虜は皆殺し。弾が勿体無いし殺し方はもっぱら刀や鈍器、銃剣などなど。従軍僧がシャベルで捕虜を順番に殴り殺すシーンなども印象的だ。感動するほど生々しい。

ある意味とても合理的だ。自身の命は鴻毛の軽き、生きて虜囚の辱めを受けず、という一見自己犠牲の尊い精神は、敵兵や捕虜、民間人に対する情け容赦ない虐待や処刑を是認することにつながった。

ベトナム戦争でペンタゴンは兵士がベトコンを撃てないことに悩んだが、日本軍の強烈な精神教育は、現場兵士達に自身の命さえ平気で捨てさせ、軍法も国際法も忘れさせ、民間人や捕虜に対して平然とテロを行わせた。

そして、日本人の多くは支那人や朝鮮人、満蒙人をはっきり下に見ており、だからこそ兵士たちは平然と残虐行為を行うことができた。おれの祖父母は満州で生まれ育って戦後帰国したが、「中国人は召使いと同じだった」とはっきり言っていた。

これらを認めぬうちから、南京大虐殺なんかデタラメだよ、日本軍はいい人ばかりだった、などとヌカす童貞野郎がネット民にはたくさんいるのだが、確かに30万人という数字は誇張であるにせよ、南京陥落後に安全区に軍服を脱ぎ捨てて逃げ込んだ国民軍の掃討に、かなりの民間人が巻き込まれたのはまず間違いないだろう。確かに、ゲリラに対抗するにはそうするしかないし、それが当時の世界の常識であるから、責めることはできない。おれは責めているのではなく、「ああ、こうだったんだなあ」と歴史を感じたいだけなのだ。そういう意味で、これはとても良い本だった。

日本人が中国人をしょうもない理由で残酷に処刑する場面がたくさん盛り込まれているが、左翼が書いたような作り物っぽさがなく、処刑する日本兵も人間的に描かれていて、特別反国家的な内容だとは思えない。南京攻略戦の場面は、手汗握るような大迫力の戦闘シーンが描かれているし、日本兵たちの死を恐れぬ鈍感さというか、蛮勇というか、その壮絶さはものすごく、めちゃめちゃ戦意高揚される内容だと思うし、純粋に面白かったけどね。。南京陥落後までの日本兵の死者が2万人にのぼっていたこととか、思ったよりずっと中国軍に苦戦していたこととか、とても新鮮な内容で面白く、バカウヨにほど積極的に読んでもらいたい内容である。

軍部がどういう部分にカリカリしていたのか、とか、伏字された部分に注目すれば明らかで、日本兵が中国人を虐待する場面や、命が惜しいと人間的に怯える場面などに修正が入っている。戦争が怖い、生きて帰りたい、という兵士の感情や願いにさえ修正を入れざるを得ない残酷な世の中。当時の日本社会は、我々が想像するより、やはりはるかに異常である。

これはもちろん創作なのだが、読めばわかるが現場の細かいアレコレは、ほとんど実際のエピソードにインスパイアされているのは間違いないでしょ。。リアルすぎるもん。。すごく良い本でした。似たような本をもっと読みたいです。

生きている兵隊 (中公文庫)

↑↑
なにか一言メッセージでも残して行ってください