掏摸ー中村文則

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これは、中村文則氏の2010年発表の長編だ。掏摸(すり)を主人公に据えた個性的な作品である。

デビュー作の「銃」も、拳銃を拾った大学生が銃に取り憑かれて狂っていく話であったが、この作者の作品は、ため息が出るような悲惨な下層社会を超リアルな筆致で描写しつつ、ほんのちょっとの非日常を混ぜ込むスタイルが多いらしい。


これもスリ師だなんて、普通なら三下の悪役にしかならなそうなキャラを、例によってクールだが激情も持っている、みたいな主人公が熱く冷たく演じている。厨二臭さは相変わらずだが、現代風で読みやすいような気がしてきました。

旧約聖書をモチーフにしたらしく、圧倒的な神のような存在に、人生を丸ごと乗っ取られ、足掻きながらも自分らしく生きようとする人の物語である。すごく地味だが知的で哲学的な内容。また、そんな内容の割に読みやすく、地の文がゴテゴテしてないし会話文も多めなので、あっという間に読めてしまう。これも正味3日程度で読んでしまった。やっぱり小説は読みやすい、ってのは大事ですね。芥川や大宰もとても読みやすいもんね。

ストーリーも地味なんだけど、描き方一つでここまで読ませられるものなのかなあ、、、と勉強にもなります。

イマイチなところは、例によって女の描き方が大変に稚拙かつ適当。雑すぎるし予想を半歩も踏み出さない単純な行動パターン、他の作品の女性キャラと喋り方が酷似していたりだとか、描き分けがもう一つできていないように思った。なんというか、生きた感じがしないというか、記号的というか。感情移入できないというか。ステレオタイプのまんまというか。

まあ、そのステレオタイプっぷりは、いわゆる漫画やアニメやラノベなどのような、型にはまった個性を好む若者には理解されやすく、受け入れられやすいと推測する。わざとやっているのかもしれないが、純文学を標榜するならもう少し深みが欲しいところだ。

あと、肝心のスリの場面だが、リアルなのかどうなのかよくわからなかった。どういうことしてるのかいまいち情景が浮かばなかったし、こんなやり方で本当に
ばれないのかなあ?と疑問に思った。

しかし、ノワールというほどではないが、純文学と、エンタメやスリラー要素をたくみにミックスし、間口を広げている感じ、このスタイルは参考になりますな、、格差の激しい腐った資本主義社会を、このように冷徹に描写するスタイルはとても普遍的なものだと思うし、エンタメ様子もある気がする。

他の作品もまた読みたいと思う。次は何にしようかな。

掏摸(スリ) (河出文庫)

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