銃 中村文則

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表紙もタイトルも非常に地味な、、、一見売る気あるの?と訝ってしまうような文庫本である。

これは中村文則という作家さんのデビュー作で、新潮新人賞を受賞。筆者はその後も芥川賞をはじめ、数々の賞を受賞し、しかも海外での評価も高い。デビューからして24歳?ぐらい?だったか。いわゆる鬼才である。

新潮新人賞は純文学賞で、この作品もエンタメ小説ではなくサスペンスでもスリラーでもなく、純文学ということだが、のちに筆者はミステリやサスペンス要素を作品に取り込んでゆくらしく、このデビュー作はその原型らしい緊迫感のある展開。なかなかスリルがある。

ストーリーも地味で、リア充の大学生が雨の日適当にほっつき歩いていたらいきなり死体が転がっていて銃が落ちていたのでそれに魅入られて拾って帰る。大学生は銃を偏愛し、銃があることで毎日が楽しくなる。そのうち銃を撃ちたくてしょうがなくなり、となると撃つ相手を決めなければならなくなるが・・・

というお話だ。正直、純文学らしい地味さだ。確かに死体やら銃やら、非日常的ではあるが、小説の主題としては地味だろう。

そんなわけでストーリーはありふれているというか、特別目新しくはないのだが、この作家の独特の文体がなんだか読ませるのである。カフカやドフトエフスキーなどの影響を自他ともに認めているが、正確にいえばそれらを日本語に訳したモノに影響を受けてるのだと思うが、海外文学をすごく意識しているのがわかる。大学生の男が主役なのだが、一人称が「私」なのも個性的である。普通は「僕」であろう。

「私」は身の回りに起こるいろいろな出来事を冷笑的に眺めながら、色々なことを考える。その心の小宇宙とでもいうべき、無限に広がって枝分かれして行く神経症患者のような偏執的観念は、確かにドフトエフスキー的である。よくそれだけいろいろ考えるな、と思ってしまうわけだが、この大学生はどんなことが起こっても徹底してクールで、感情的になることもなく、自分のことなのに全部他人事のような態度をとる(典型的な中二病)。必死で自分のこととしてとらえるのはその「銃」のことだけ。まあそういうキャラなのだろうが、いかにも自己愛的で当時(0年代初頭)流行ったクールで決して熱くならないが、何でもそつなくこなす、女にもモテまくりの主人公だ。今でいう「チートもの」ラノベの原型のような漫画的な主人公である。パパとママの愛情も順調に足りない(この時代は漫画の主役はこんなんばっかだった)。漫画の主人公が大真面目に文学やってる感じというか? そのちぐはぐさを楽しめる人にはこれは新しいと思うが、ミスマッチに感じることも多いだろう。個人的には、キャラ造形がチープだな、と思ってしまった。

特に主人公の周囲に現れる女たちだが、実に安いし偏見の塊のような造形で、女はこれ読んだら多分ムカつくんじゃないだろうか? 主人公の「私」は、その女たちと何の苦労も努力もなく、勝手に言い寄られてセックスする。しかも女は簡単にセフレ化するし、そして同時に「私」に惚れてもいるし、心配もしてくれる。童貞小僧の妄想のような、いわば少年ジャンプ的な、漫画やアニメに典型的などこまでも自分に都合の良い女キャラたちによるハーレム。これは純文学にしては全然リアルではなかった。こんなんでいいのか? と思ってしまった。まさかこの主役に自分を投影して書いたんじゃないだろうな、、、と非常に心配になってしまった。女はもっともっと普通に冷たいものである。そういう経験を大学でできなかったのだろうか? この作者は他の作品でも女の描き方が下手くそであると批判を受けているのをよく見る。弱点なのかもしれない。

女というのは、簡単にはセックスさせてくれないし、させてくれたとしたら今度は異常にこちらに執着してくるものだ。男はそれ見てひいてしまうが、ヤる前に散々誠実さと愛情を囁いているものだから、今更全部嘘でしたとはいえないし、自分ごときダメ男を好いてくれる女がほかに全くいないことをよく知っているから、ひいてはしまうけれど結局その女に執着する。そして逃げられそうになったら暴力を使ってでもそれを食い止めようとする。女もタダ乗りは決して許さない生き物。愛情(ひいてはその男の持つ継続的経済援助)が得られないなら、即物的に金銭を要求するはずである。それさえしないならその女は相当バカである。命のリスクと出産のリスクを一方的に背負うことになるセックスという行為を、簡単にさせる女は滅多にいないし、いたらアホである。そんな女はほとんど見たことないんで、ワタクシには現実味が感じられなかった。

この小説のようなあっさりした奴は、現実では大抵童貞であるし、勝手にモテるなんてことは当時からなかった。女にモテたいなら努力するのが基本である。勝手にモテるということは進化の歴史を振り返ってもない(断言)。あるとしたら漫画やアニメや映画だけだ。

よっぽっどイケメンなら、大学生限定でありうるが、イケメンなだけではだめで、髪型や服装もこだわる必要があった。作中、主人公の見た目に関する言及は一切なしだが、何にも執着しないこのクールな主人公がユナイテッドアローズで一着2万円のシャツを買ってくる姿が想像できない。いろいろ突っ込んで考えると現実味がないのである。だいたいこれだけ女にモテまくって好きな時になんのしがらみもなくセックスする相手がおりながら、こいつはなぜそんなに日常を退屈がっているのか、全然共感できない。超リア充であるし、大学生というのは女っ気ゼロで煮詰まってるダメな童貞野郎もたくさんいる。Twitterを20秒ロムればすぐわかる話だ。

というわけで、共感は全然できないんだけど、文章はおもしろいのよ。情景描写とかほとんどなくて、地の文はほぼ大学生の心の中の声なんだけど、「~~なのだと思った」「~だろうと思った」「私は~~だと思ったが、本当は~~なわけでもないのだろうと思った」とかとにかくいちいち「思った」というのであるが、そもそも全部心の中で思っている文章なわけで、いちいち「思った」とあえて書く必要はないはずである。しかし、「思った」「思った」の連続がいいあんばいにこの作品にリズム感をもたらしていて、テンポが良いのである。なんでかはわからないのだが、、、すいすい読める(笑)。読みやすい純文学というのも太宰治っぽくていいものだ。

この独特のテンポが癖になるというか、続きを読みたいと引き込む力はかなりあったな、と思う。デビュー作だし造形が甘いのは当然だろう。このたび、新潮新人賞に今度応募しようと思ったから読んだんだけど、他の作品も読んでみたいと思う。読みやすくて三日ぐらいで読めてしまった。これだけキャラに共感できないのに、このリーダビリティは素晴らしい。恐るべき才能だ。

銃 (河出文庫)

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