「戦争のはらわた」が掲げる普遍性

シェアする

戦争映画を考える際、まったくもって解決不可能な矛盾がある。
それは戦争をかっこよく描くことをどう考えるかである。


意図的にカッコよく描こうとしてかっこよくなることもある。苦労する前線兵士を。勇敢な国民を。偉大な指導者を。

カッコよく描こうというつもりはないけど、結果としてかっこよくなってしまう例もある。前線の様子をリアルに描くと泥まみれで戦う兵士たちの姿は、悲壮感を伴い、時に英雄的にうつるし、大義のために闘うという行為は古今東西のかっこよさの源泉である。たとえテーマが反戦映画であったとしてもである。

ドイツ軍の制服のように、ドイツ軍は悪く描かれているけど制服がかっこよいせいで、ファンが増えてしまうという矛盾も時に生じる。

そう考えた時にやっぱり原点に立ち返って基本の一作を観てみたい。「戦争のはらわた」だ。

これは原題は「Cross of iron」、鉄十字である。鉄十字勲章のことだ。勲章や名誉にまったく興味がない現場指揮官と、勲章が欲しいだけの腰抜け将校の確執を描いた映画だ。

http://wolf.adolf45d.com/eigaharawata.html

おれはこれは長らくサム・ペキンパーという米国人の監督によって作られた単なる英語の芝居で、ドイツ軍の描写はうまくないと思っていたが、それは誤りである。

この映画には日本語吹き替え版が存在しているという噂や、有志が作ったドイツ語バージョンが存在しているという噂がある。この映画の欠点は「台詞が英語であること」以外は特にない。とても素晴らしい戦争映画で、教科書と言うか見本と言うか、とりあえずこれが嫌いなら戦争映画はもうあんまり観なくて良いと思っている。

と言うわけで褒めちぎっているが、この映画のドイツ軍の内部の描写についてだが、参考になる小説を引き合いに出したい。

第6軍の心臓

これは、独ソ戦に従軍した経験のあるH・G・コンザリクの初期戦争小説で、タイトルが物語る通り、スターリングラード攻防戦を描いた小説だ。

1950年代に発表され、その後続いた独ソ戦を描いた小説とあわせ、世界中で大ベストセラーとなった。しかし、邦訳はだいぶ遅れ、1980年代。これは昔古本で100円ぐらいで投げ売られていたのを買ったのだが、けっこう大著なのでだいぶ読むのに時間がかかったのを覚えている。

スターリングラード戦の地獄の様相や、戦争映画でおなじみのキャラクターのテンプレートなど、いろいろと原点を感じることができる。

主人公はベテラン軍医と、婚約者を爆撃で亡くしてわざわざ死地に舞い戻った若き軍医。そして、ソビエト側視点もしっかり用意し、公正な描写を心がけているのがわかる。原点からしてわりと完成された内容で、痛々しく寒々しい氷の戦場の悲惨な実態、極限状態の人間の醜い営みが描かれ、安全圏からぬくぬくと部下を死なせるような自殺的命令を出しまくる無能プロシア将校や、情に厚く人間的優しさを持つ師団長などが登場する。

プロシア将校は、勇ましい言葉で部下を死なせるくせに、自分は前線で腰を抜かして部下を捨てて逃げ出す弱虫だ。師団が崩壊し、ついに第6軍が降伏する段になると、師団長の将軍がこの弱虫将校を連れ出してソ連戦車と対峙する。

「師団はどこですか? まだ私は部下を見ておりません」
「ここは師団のど真ん中。私とお前の二名が師団だ!」
そう言って二人はT34の砲塔の正面で玉砕するのだが、これが「戦争のはらわた」の「お前がおれの小隊だ」のモデルになっていることは疑いない。

初めて観た時は奇妙なシーンで奇妙なセリフだな、と思ったものだが、原点は50年代のドイツ小説だったということだろう。

というわけで、「将校は好かん!」の戦争のはらわチズムは、アメリカ人の脳から生まれたわけではなさそうだ。

勇ましい言葉で若者を戦地に追いやり、死なせる人間こそ最も邪悪だ。そして、地獄の底で惨めな最期を遂げた兵士たちは英雄などではなく、普通の人々であった。彼らを英雄視することで、我々は同じ過ちを何度でも繰り返すだろう。日本だって太平洋の島々で若者を大量に殺したエリートの無能参謀どもを糾弾するべきである。ニューギニアで餓死した将兵が英雄だなんてとんでもないことである。「軍旗はためく下に」を観てほしい。DVD出たし。

戦争はカッコ良いものではないし、兵士たちも英雄などではない。

映画を観ているとどうしても兵士たちはかっこいいし、戦争自体も英雄的な正義の戦いに見えてしまう。しかし、それは全てまやかしである。例え、かっこいいと思ってしまったとしても、冷静に一歩引いて考えなければならないのではないか。

映画「スターリングラード」は、コンザリクの志を受け継いだ映画で、兵士たちは決して英雄として描かれることなく、地獄で嬲り殺された被害者として描かれている。ヒトラーの罪を一身に背負い、今でも悪玉として忌み嫌われるドイツ将兵たち。その無念の姿は普遍的な悲劇として語り継がれるべきでしょう。

↑↑
なにか一言メッセージでも残して行ってください