サウルの息子

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けっこう前から楽しみにしていたアウシュビッツ収容所を舞台にした映画「サウルの息子」。明日から公開である。これはかなり楽しみにしている。新宿の「シネマカリテ」に観に行く。

オフィシャル


舞台は私が昔作った「二度と観たくない戦争映画」ランキングで2位を飾った「灰の記憶」とほぼ同じ。

灰の記憶

予告編を見る限りでは、これはおそらくこんな流れだろうな、、、多分こんな感じであんな感じに持っていってラストはああだろうな、、と予測はついているのだが、頭を空っぽにして楽しみたいと思う。なにしろこれはカンヌでグランプリを獲得しているので、内容的には傑作の呼び声が高いし、ハンガリー映画であることも高ポイントである。

なぜかというと「灰の記憶」の欠点はセリフが全部英語だったことである。アメリカ人も英国人も登場しないのにねえ。。メンゲレが禿げだったりと作り込みにも疑問があった。(どこの誰か知らないが”「灰の記憶」にメンゲレは出てこないです!」”と何故か自信満々に断言するメッセージが来たけど出てるよ。探してみろ)

言葉が英語なのがなぜそんなにダメなのか?些細なことじゃないかと思うかもしれないが、ナチスドイツが絡む映画で基本的に全部のセリフを英語とかに簡単にしちゃならない、と思っている。

特にこの映画の舞台は1944年の10月頃のアウシュビッツだ。時期的にはハンガリーから移送されてきたユダヤ人で溢れかえっていたはずで、ハンガリー人の監督がこの時期を選んだのはそこが理由として大きいと思われるわけだ。

第三帝国極悪伝説外伝 ハンガリー編

ハンガリーは枢軸の同盟国としてずっとナチと一緒にロシアと戦っていたが、ナチが落ち目になると寝返ろうとしたのでちょび髭によって占領されてしまう。そしてそこには欧州最大規模のユダヤ人コミュニティがまだ無傷で生き残っていた。ゲシュタポのアドルフ・アイヒマンがハンガリーに着任してこれらのユダヤ人コミュニティを徹底的に解体し、急ピッチでアウシュビッツへとピストン輸送する。ただ殺すために。

ガス室も焼却炉も追いつかないわけです。ほんの数ヶ月で30万とも40万とも言われるユダヤ人が送られてきたのだから。地理的に一番多かったのはポーランド人で、彼らだってまだまだたくさんいたわけでしょ。殺そうにも追いつかないでしょ。焼こうったって間に合わないでしょ。だからその辺で野焼きにしたり埋めたりしていたらしいのよ。

で、それをやるのはユダヤ人の特別労務班(sonderkommando)で、この時期に監視していたのは主にウクライナ人の傭兵で、ほんのわずかにドイツ人の親衛隊員がいて・・・という暴力をふるう者とふるわれる者のヒエラルキーがあった。カポという囚人頭もいて、これはユダヤ人とは限らず、ドイツ人の共産主義者だったり比較的軽めの政治犯だったりした。囚人の中にも上下関係があって、ドイツ人の政治犯を頂点に西ヨーロッパ系、スラブ系・ソ連兵捕虜と続き、最も賤しく下に見られたのはユダヤ人やロマ人(=ジプシー)、同性愛者であった。その他、アウシュビッツには本当にたくさんの文化圏の被収容者がいて、それぞれが独自の言語を操ったのであって、これらを全部「英語な!観客ほとんどアメリカ人だし(笑)」というのはあまりにも暴論である。

ハンガリー人は当然ハンガリー語。
ドイツ人はドイツ語。
ポーランド人はポーランド語でロマにはロマ語がある。
ソ連兵捕虜はロシア語で、ウクライナ人看守はウクライナ語かへたくそ片言なドイツ語。
同じくラトヴィア傭兵はラトヴィア語かへたくそドイツ語。リトアニア傭兵も同様。
ユダヤ人は基本的にイディッシュ語(ドイツ語の方言のような似た言語らしい)で、ヘブライ語を話せるものもわずかにいたが、知識階級もいたわけだしバイリンガルな人もいたであろう。でもユダヤ人は基本的に貧しい階層の人間が多く金持ちばかりというのは偏見である。彼らは母国語さえ満足に話せなかったであろう。

こんなにも奥深くて複雑な世界を英語一色に塗りつぶすなんて、、、、なんてもったいないのだ、、、と悲しくなってしまうのでそういうのはやめてほしい。

それでも「灰の記憶」はそこそこよくできた作品で、我が国の「文部省」もおススメしているという。とても残酷すぎる世界で観賞要注意だが、これが現実なのだと歴史の無慈悲さに立ちすくむのも一興だろう。

「サウルの息子」は少なくともハンガリー人はハンガリー語。ドイツ人はドイツ語を話しそうなので、かなり期待している。内容は残酷描写が鍵となりそうだが、おそらくラストは・・・・・な感じになると思うので、そこそこアクションもあるかもしれない。しかし監督はタル・ベーラの助監督だったらしいので、固定カメラ長回しの退屈映画になっていないか心配。そうなっていないことを祈る。明日明後日で絶対にレビューをあげるので「戦争映画中央評議会」にてお待ちください。ああ、楽しみだ。。待ってたぜ!

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