書評―戦場のコックたち

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長いことこういう小説を探していた。

日本人の作家の手で
第二次大戦が舞台で
下手に日本人が登場せず
軍事的リアリティや史実に手を抜かず
異文化を描き切る、、
そんな戦争小説を


とりわけ、そういう小説を自分が書こうと足掻いたからなのだが、そんな教本になるような小説が欲しかった。しかしついぞ出会えぬまま三作ぐらい書いたが、できれば書く前に読みたかった。

というのも、冒頭の条件を満たした小説はほとんど存在していない。あっても文学的価値は一切ない同人小説ばかりか?それでさえほとんど見当たらない。異国が舞台でも主人公だけは日本人だったりとか。そして当然そんな風に日本人が配置されている以上、物事の視点や洞察は日本人的価値観になるし、そうなるとあんまり参考にならない。

ひたすら参考にしたのは結局洋書や皆川博子氏であった。仕方がないのだがそんな風に教材の少ない中で独学していくような不自由さがあったのが、ワタクシの人生初の創作体験であった。

この小説は正直無難にまとまっていてかなり完成度が高いと思う。しかし思うに、日本人が書いた、ということ以外に目新しさはない。映画の「バンドオブブラザース」が好きでしょうがないのはすごく伝わったが、アレの二次創作のようなお話であった。。

また、一人称の軽いノリが「卵をめぐる祖父の戦争」によく似ている。あれは独軍包囲下のレニングラードで市民が餓死していく中、秘密警察の大佐の娘の結婚式のために卵を探すユダヤ人の少年のお話。とても秀逸な冒険小説ながら、レニングラード包囲戦の悲惨な実態もあますところなく描いている。独ソ戦が舞台の小説ではワタクシ一押しの小説だ。とても読みやすくバカバカしくて笑えて泣ける。素晴らしい娯楽小説だ。食い物が絡むあたりテーマも似ているのか?表紙の雰囲気も似ている。ただしこれはアメリカの小説である。(昔熱いレビューを書いていたがもう消えてしまっているな。。。また書き直そうか)

さて、本作だが、残念なのはコックたちという設定がほとんど活かされていなかったことだ。このストーリーにこのテーマならば主人公たちを特にコックにする必要はなかったはずである。コックと言っても第一〇一空挺師団の野戦炊事班であり、ちまちま料理をするようなシーンはほとんどなく、レーションを配ったりとか、乏しい前線食糧事情の中で栄養管理をしたりとか、そんな地味な仕事であり、ほとんどは銃を持って前線で他の兵士たちと一緒に戦わなければならないのだからしょうがないといえばしょうがない。なんだか主人公が初陣から全く戦場にビビっておらず、すぐに順応しているように見えて違和感があった。それに西部戦線のアメリカ軍の物資が豊富なことと、休暇が豊富なことを見てなんて恵まれた環境なんだろう、、、と思ってしまった。おかげで緊迫感や悲壮感は削がれている。主人公たちの語り口もアメリカンホームドラマ風だととるか、ラノベ調だな、とるかはかなり微妙なところ。非常に軽い印象を受ける。同僚に敬語を使うアメリカ兵がいるのも違和感がある。キャラの差別化と知的さを出したかったのかもしれないが、、そういうのはいかにも日本人的感覚だ。

これは結局ノルマンディーからドイツの降伏までをダイジェスト仕様でなぞるだけのお話で、ツラい戦闘を通じて主人公と戦友たちの友情や連帯がいかに強かったか、と読書を泣かせようとするタイプの娯楽小説であった。ところどころに軽めのミステリーが設定され、眼鏡で真面目なユダヤ人兵士が探偵役となってそれを解決していくというお話が複数挿入される。これは最初イマイチのれなかったが、読んでいくうちにこういう間の持たせ方もあるんだな、と参考になった。謎を解きながら、戦争の舞台裏にスポットを当てていく手法だ。とかく説明文ばかりになってしまいがちな歴史小説だから、自然に流れるように時代を説明したいものである。そこで謎解きの過程が重要な小道具になるのである。

この手の戦争小説を純文学にしたいのならば、淡々とありのままの悲惨な状況を詩的に表現する、、というのがセオリーである。過剰な説明は省いて。難解な軍事・政治用語は最後に註釈で補えばよい。「慈しみの女神たち」がまさにそれにあたる。しかしこれでは売れないだろう。というわけで娯楽小説に仕立てるならばこういう謎解きのカタルシスを合間合間に挿入した方が良いということなのだろう。謎と謎解きを含ませることでこんなにも娯楽性が増して読みやすくなるということを体感することができた。

とはいえ、この小説はやはり題材の割に軽い小説だ。読みやすいともいえるのだがこの手のお話を露骨に娯楽にするのは好きではない。泣かせようとするのもやや違和感である。言葉を失うような悲惨美を表現してほしかった。茫然とするような。表情も動かなくなるような。心の奥底が冷え切ってしまうような無残を読みたかった。しかしこれは手堅く娯楽小説として完成されていて、きっと世間の評価は高いのだろう。直木賞候補だと聞いた。この手の異国が舞台の戦争小説が直木賞候補になれるというのは相当勇気がわく事実ではあるが、、、、残忍な描写はあるのだが、どこか肉を伴わない空疎な表現だ。後半の強制収容所の解放のシーンなどは、、、そもそも絶対後半にこのシーンやるんだろうな、と予測していたし、中身も参考にしたのはアレやろ?とすぐにわかる感じだった。時代になじみがない人は目新しいかもしれないが、ワタシは少し物足らなかった。。。生意気なこと言ってるなおれも。。。文句があるなら自分で書いたら?!まったくその通りでございます。

まあ、おれも自分のスタイルについて迷走していて、娯楽性を排除した純文学か、ある程度は娯楽性を含めるかで迷っている。で、今のところは自分の小説は純文学ではない、エンタメ小説だと考えているので、この作品の盛り上げ方や話の展開や謎解きのカタルシスを学ぶべきなのだろう。。この小説は戦争娯楽小説の日本人による完成形だと言えるほど完成度は高いと思う。でもなんかやっぱり娯楽性ばかり追い求めるのは問題だな、、といろいろ考えさせられて、それは良い体験でした。なんか文句も書いたけど、自分が今後教本にして行くであろう重要な小説になりました。作者に拍手したい。よく調べたもんだ、ほんと。

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