苦役列車

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ずっと気になっていたタイトルなのだが、小説読むのも面倒だしとりあえず映画を観てみようかとようやく最近観た映画だ。

いわゆるプロレタリアートの最底辺で蠢きもがき苦しむ男のお話だ。家賃一万円の三畳一間の部屋に住まい、力仕事の日雇い労働で日銭を稼ぎ、入った金は全部酒と風俗と煙草に消えるという底辺労働者の営みを活写しつつの青春群像劇のような趣である。

自分で言うのもアレだがおれも若いころは苦労したものである。20代というもっとも華やかなりし時代は労働と貧困と下積みのうちに終わった。何も楽しいことはなかった。辛いだけの日々であった。本当の貧困の味を知った。こう言っちゃアレだが、この豊かな日本で当たり前に暮らしていたらそうそうここまでの極貧状態に追い込まれることはあるまい。また貧乏自慢がはじまるとアレなので、今度昔のコラムでもアップしようかと思うが、そんなワタクシから言わせればこの映画の主人公の男は激甘納豆である。

まあ、特別に階級闘争を描きたかったわけではないと思うし、世の中に対する恨みつらみもほとんど感じられなかったが、この映画の見せ方では(小説は未読なので知らないので言及しない)主人公に同情することは難しい。この主人公は不遇の家庭環境、父親が性犯罪者というスティグマがあるわけだが、まずここがよくないと思ってしまった。設定に文句つけるのは大変失礼だが、この設定では客の共感を得られにくいと思う。特殊な設定だもんな。普通の中産階級で特に家庭に問題のない者が、大学まで出たけれどゼンショーにでも就職して殺されかかるという話のほうが身近な恐怖としては圧倒的に上だろう。父親が犯罪者で、自分は日雇い労働者。時代が少し古いから労働のあり方もなんだか今と違うのだよね。日本が一番景気が良かったはずの時代だし、この苦役を逃れようと思えば酒と煙草と風俗通いをやめればいいだけではないか?そう思ってしまうのでこれはなかなか苦役というには言葉が過ぎると思ってしまった。

風俗行く金があるんなら十分幸せだろ……おれの場合、そんな金はどこにもなかった。率直に自分のタールのごとく黒い青春時代と比較してそう思ってしまった。友達も結局いるし。女友達もできて甘酸っぱいアレコレも色々とあるわけで。十分主人公は楽しそうである。イベントも色々起こるしバラエティ豊富な毎日だ。おれの目から言わせればこの主人公は十分リア充だ。

だいたい、前田敦子役の少女のキャラ造形は、「少年ジャンプに出てくる勝手に主役に惚れる女キャラ」のテンプレだ。あんな不気味な風俗狂いでいつもタバコ吸ってるやつに「友達になってください」と言われて「いいよ」と即答する女がいるだろうか?もちろん、主人公は少女の勤める古本屋に通い詰めていたようなので顔なじみだったのかもしれないが、劇中は店にも入らず窓越しに少女を覗いているだけだったので、ここは演出のミスマッチだ。単なる不気味なストーカーなのにどうして受け入れてしまったのだろうか?これは現代的感覚で言えばかなりの疑問である。

その後はもう一人の友達と三人で仲良く毎日遊ぶのだが、少女はひたすらノリの良いいい子で、冬の海でパンツ一丁で泳ぐ二人の男友達を見て自分も下着姿になって泳いでくれたりするのだ。おれの考えでは、こういう行動をとる女はファンタジーの世界にしか存在しない。これはいくらなんでも現実味がなさすぎる。ここまでしてしまったら「こいつおれに気があるww」と主人公が勘違いしても仕方がない。

主人公はしょっちゅう風俗通いをしてしっかり生身の女にヌいてもらっているのに、前田敦子の肉への欲求を抑えきれずレ×プ未遂を起こすが、前田敦子はしっかりキスまでは嫌がりつつも受け入れてくれる。ファンタジーだ。ファンタジーがいかんというのではないが、現実の果てしない暗さをテーマに選んでいるはずなのにこんなわかりやすい救いを置いておくあたり、甘い甘いと思ってしまった。そんな甘いもんは真に暗い時代はどこにもねえんだよ。本当に作者は苦労人なのだろうか?謎である。

主人公は性欲のはけ口ではなく、愛がほしかったということだろうと思うが、いちいち行動が卑屈でアホなのでやはり共感は難しい。例えば女の子を紹介してくれるという友達に酔っぱらって死ぬほどからんで侮辱したりとか、なんでもうちょっと我慢できないのだろうか?と謎であった。本当に暗い時代、そんなありがたい話すら欠片も浮かんでこないものなのに、苦界から引き上げてくれるお釈迦様が蜘蛛の糸たらしたようなものである。それを登りもせずに釈迦をディスってどうするんだ?と不思議である。なかなか共感は難しい。贅沢なことしやがって、とイラついてしまった。

そういうわけで、苦界を描いているようでいて、自業自得のダメ男を描いていると言える物語だ。社会の厳しさというより、男の馬鹿さ加減、駄目さ加減に比重を置いているように思える。おれはブラック企業に就職してひどい目にあった経験があるので、似たような社会の理不尽を描いた話を期待してしまっていた。もうそこまで言うなら自分で書けよ、と思うでしょうが、全くその通りだ。物語に共感できなかっただけで映画の出来はとても良くてひきこまれて最後までじっくり観れたので、オススメである。いろいろ考えることができたので観て良かった映画です。主役がブ男なのが良かったな。

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