卑怯者の島

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これはおもしろい!
著者は何かと悪評が漂う小林よしのり氏だ。
これは氏の雑誌「わしズム」とかいうのでひっそり連載されていて、昔、おれはたまたまそれを立ち読みしたことがあったのだが、「んだよ、ウダウダ言ってないでこういうのできるんならもっとやればいいのに…」と思ったものであった。

氏はいわゆるネトウヨの教祖的人物である。大学生の時、友人の部屋で「戦争論2」を読んで、一時的ではあったがおれも即席の愛国者となって、同じような考えの人々と国を憂うごっこをしたものだった。

しかし時が経つにつれ、人々のリテラシーは単純となり、氏の主張をさらに過激化した思想が、結局のところレイシズムに帰結したのを見て、おそらく教祖も「こりゃいかん」と思ったのかもしれない。最近発表する時事放談は幾分過激さを潜めた「反米保守」であり、ネトウヨを批判する姿も頻繁に目にするように思う。ネトウヨを生んだのは自分であるとの反省は、絶対この人は持っていると思う。そこでイデオロギーを主張することの難しさを改めて学んだことだろう。


…というのはワタシの妄想で、これは無視して頂くとして、この作品はそういうのは抜きにしてとりあえず読んでみてほしい。

冷徹かつ情け容赦ない戦場の描写は、まさしく「プライベートライアン以降の戦争映画」だ。これは漫画だが、ほぼ映画である。ま、というのは言い過ぎか?しかしとりあえずこれは「野火」に続くイカれ戦争映画ということで映画化を努力するべきである。戦後80年ぐらいのあたりでどうでしょうか。なんか作者が大物だし著作権をクリアするのがムズそうだが是非やってほしい。

これは日本が絶望的な抗戦を強いられた南方戦線での米軍との殺し合いを描いた漫画だ。ペリリュー島をモデルにしたというが、エピソードを無理に踏襲しているわけではないようだ。オリジナルストーリーである。派手な殺し合いは最初だけで、あとは洞窟にこもってひたすら飢餓と死の恐怖、堂々巡りの観念と闘う。そして最終的には、、、、

まあストーリーはある意味ではわかりきった流れで、マクロ的にみれば全く目新しいとは言えないのだが、王道と言えるし、独特の具体的な描写は緻密で生々しく、おそらく本当のエピソードや証言を山と積み重ねて再構成した「ありそうな話」となっている。登場人物は架空だが、実に「いそうな設定」となっており、主人公は例によって特別抜きんでたところがない普通の人である。

十分勇ましく戦っていると思うのだが、既に雄々しく戦死した隊友に報いたい、恥じぬ生き方をしたい、でも死にたくない、何が何でも死にたくない、死ぬことを恐れるおれは卑怯者だ、でも生きたい!生きたいと願って何が悪い!でもやっぱり助かりそうにないし死のう、ああ死のうと決めたのにやっぱり生への本能がまた、、、、という正に堂々巡りの観念だ。もしも自分だったら、戦場行ったら、多分敵前逃亡罪で銃殺されて故郷の家族に迷惑をかけるか、そうなる前に自決しよう、自決すれば戦死扱いで英霊様で遺族年金も出るし無駄死にじゃないも~ん、などと考えて真っ先に死に逃げしそうである。

死ぬのを怖いとは言えないが、どうせなら意味ある死を迎えたい。そう願うのは当然だ。この漫画の中で語られるエピソードではないが、日本兵は異常なまでに死を恐れぬ軍隊だったと言われるのだが、唯一怖かったものがあった。地雷である。この頃の地雷は火薬調節もされていないので踏んだら大爆発を起こし、下半身は吹き飛んで臓物がばら撒かれ、それでもなお死に切れぬという無様な姿になる可能性があった。敵がどこにもいない無人の荒野で一人で勝手に肉塊になるなど、最も恐ろしい事態である。これを恐れ、地雷が埋まっているとわかると日本兵は足が止まった。これを利用して八路軍はかなり地雷を信用していたという。工兵が地雷を撤去するまで日本兵はまったく進めなくなったからだ。これは終戦まで有効な戦術だった。意味ある死をどうしても求めてしまったのが日本軍の弱点だったかもしれない。地雷原に囚人部隊を突っ込ませでまで進軍し、最終的には勝っちゃったソ連軍とどちらがまともなの、と問われたら、もうおれはよくわからず思考停止である。

この漫画もいろんなものを突き付けてくる良い漫画だ。普段からワーワーイデオロギーを唱えるより、こういう文学作品を作って、登場人物の口を借りてもっと遠まわしに主張した方が周囲は評価するし、真剣に考えるものだ。まあそれをやるには作者は歳をとりすぎたかもしれないが、、、

「野火」に比べればまた慈悲深い世界であることにも注意したい。重要人物級のキャラは、いずれもがなかなか勇ましく、良い最期を遂げる。露骨な人肉食の描写もなく、主人公は最期まで体力も気力もたっぷりで元気である。この辺りは十分に情け深い世界である。もっともっと無意味で、腹ペコで、汚く、くだらない死に方が主人公も脇役も関係なく降り注ぐのが戦争だろう。それに飢えればヒトは著しく思考力が低下する。こんなに哲学的に内省ばかりできないのでは?そういう意味ではこの漫画は十分愛国的だし、少し美化された戦場を描いている。「野火」の冷徹さには及んでいないと感じた。しかし、その分スペクタクルは派手になって、多分娯楽映画としてはこちらの方がおもしろくなるだろう、、、と既に映画化した時の予想などをしてしまいましたが、これは是非映画化してほしい。ただし、冒頭の戦闘シーンはあまりにもいきなり肉弾戦をやりすぎである。縦深防御戦術なら日本軍もトーチカにこもって野砲や機関銃に頼って戦っていたと思うし、塹壕があるならそれはそれでむやみに出ていかないだろう。いくら日本軍でもそこまでアホではなかったと思うので、この辺はまさにスピルバーグの「ザ・パシフィック」が参考になるはずだ。物語のテーマ上、こうする必要があったのはわかるが、それならこれを真っ当だとみなせるようなサイドエピソードでしっかり補完してほしい。あんな戦い方では「ペリリュー」が海兵隊教本に悪夢として刻まれることはなかっただろう。戦車も出てこないし、軍事的リアリティは案外大したことないが、表現力は流石とといえる域に達している。

いずれにしても映画化は挑んでほしい。よしりんが自分の人脈でやるのが一番良いように思う。死ぬ前に是非遺していってほしい。

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