“切腹”

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残酷な時代劇といえばこれだ。
仲代達矢の物憂げな演技がこの上ない怪しさを爆発させておりいい感じだ。ミステリー仕立てで、ストーリーが進むにつれ、何度も驚かされる。傑作だといえるだろう。

ストーリーは三池崇史もリメイクしたことだし、ググればいくらでも出てくるだろうと思うが、なかなかパンクでグッとくる。

戦国の世も終わり、なんとも言えない退屈な平和が来た。それまで殺しの手管で飯を食ってきた侍たちも、一部の勝ち組は大名に召し抱えられて士官の道を歩めたけれども、その他大勢は浪人となって腰に大小二本の凶器を差したまま思い思いの生活をしていた。

もちろん、気ままに暮らす者もいたであろうが、だいたいが食い詰めており、明日の飯にさえ困窮する有様。武士は食わねど高楊枝ではあるが、本当に何もしなければ餓死という現実が待っている。町人のように内職したり、町の子供に学問を教えたりして、爪に火をともすような生活を強いられる。なにもかも妻子を食わすため。自分が生きるため。誇りは食えないし、しばしば邪魔になるばかり。どうにもならん世知辛い世の中である。

現代にもどこか似たような国があったように記憶しているが、これは裕福な家庭に生まれ、高い教育を受けた人間たちでも、結局飯が食えなければ恥がどうのこうのと言ってられない。なんでもやるし、そうするしかない。それは昔から変わらぬ人間の営みと申すものでありましょう、、そんな現実を描いた映画だ。

カッコつけていても腹が減っては立つ瀬がない。人は飢餓に無力である。なんか食うしかない。それは今までもこれからも絶対不変の法則である。

残酷な時代劇というかあ、残酷な時代を描いた劇である。チャンバラが最後に用意されているのだが、武士の潔さ皆無の悪あがきまくりの乱痴気騒ぎ。おれはこういうカッコ悪く足掻く姿の方が、人はなんと誇り高く美しいのだろうと思ってしまうのだ。その点武家社会は体面ばかりを取り繕って、頑固で、人命を軽視し、なんだかわからない権威に対し盲従するばかり。秩序を保つためにはそういうものを守る必要もあるのかもしれないが、我々の歴史はあまりにも弱者の涙に無頓着であった。それは間違いなかろう。

さて、これは62年の古臭い日本映画なのだが、今観ても色褪せず、我々の胸に何がしかの教訓を残していく良い映画だ。

現代でも武士の末裔たちが、貧困の中でもがき苦しんでいる。あるいは硬直した融通のきかぬ社会の中で、神経をすり減らし、善悪を他人に任せ、心を殺して働いている。

この映画の中で描かれる現実は、不思議なほど現代社会ともシンクロしているのだ。

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