第3章 ブラックメタルと国民社会主義
※↑画像はドイツのNSブラックメタルバンド「KATHARSIS」の4thアルバム「fourth reich」のジャケット。第四帝国・・サタニズムとナチズムの融合を最も端的に表すアートワークだろう。
ファシズム=ナチズム=国家社会主義=国民社会主義=民族主義=NS(national socialism)・・※ブラックメタルの世界ではどういう表現されようと↑の単語たちはだいたい同じような文脈で用いられます。これら極右政治思想とブラックメタルは結びつきやすい。前ページでも述べたが、反キリストは固有の文化の憧憬へとつながり過剰なナショナリズムと結びつく。
ヴァイカーネスはブラックメタル・シーンにおける最重要イデオローグで、彼の思想を真似るフォロワーも多数現れている。 その大きなきっかけとなったのが1997年のヴァイカーネス救出未遂事件である。 97年、「アインザッツグルッペン※」と名乗る極右組織構成員5名が逮捕される。彼らはノルウェーの政治高官、司教、著名人などに実力行使をする計画を立てていた。その計画の中にはヴァイカーネスの救出作戦も含まれており、彼らは民兵組織に必要なアクセサリーを全て所持していた。鉄ヘルメット、防弾チョッキ、銃弾ベルト、スキー用マスク。ショットガン数丁とダイナマイトも押収されている。その後の捜査でAK47突撃銃やライフル、拳銃などが発見された。 ※アインザッツグルッペンとはナチス親衛隊の特殊部隊で、大戦中、占領地における反乱分子の撃滅と防諜を主任務としていたが、そのうち全ユダヤ人、全共産党員、普通の民間人にまで魔の手が及び、恐怖を撒き散らした悪名高い最悪の部隊である。 この件に関してヴァイカーネスはテレビインタビューを受け、以下のように語った。 このインタビューの際ヴァイカーネスの見た目はショッキングなものだった。いかにもネオナチが好みそうな風貌だったのである。具体的には頭髪は丸坊主で、黒のポマードジャケット、ベルトのバックルにはナチス親衛隊のSSのシンボルがついていた。 「アインザッツグルッペン」の中核メンバー、トム・アイターネスはこの事件を起こす前、別の事件で刑務所に服役中ヴァイカーネスと出会ったと推測されている。彼は単純な右翼思想からオーディン信仰を公言するようになったのである。 この事件以降、ブラックメタルとナチがますます親和的に語られるようになる。 ノルウェーの右翼過激派が専門の社会学者カトリーン・ファンゲンはブラックメタルとナチズムの接近についてこう述べる。 「ブラックメタルシーンに入ってくる若者の多くは刺激を求めてのことですが、そのうちサタニズムを幼稚なものと考えるようになります。より真剣によりリアルに政治的な活動をしたいと思うようになるのです。ここ数年、そういう人がとても多いです。 ※一部言い回しを変えています。 これらの言説からナチとブラックメタルの親和性を語ってきたが、おおっぴらに右翼思想を叫ぶバンドは少ない。なぜならそれはCDのセールスに大きく影響するからである。ダークスローンはCDのジャケットに反ユダヤ主義的主張を書いたためにボイコットを受け、謝罪文を掲載した。 ダークスローンの例に見るように、極右思想を持っていながら、CDのセールスに影響するから黙っているというバンドは多く存在していると推測される。しかし中には声高に極右思想を喧伝するバンドもいる。それらはNSブラックメタルバンドど呼ばれ、シーンの中で特にアングラ臭を放つ一派だが、一定の勢力を有している。 ドイツのABSURDというブラックメタルバンドはヴァイカーネスと親しい間柄にあり、共同戦線を張っている。 東欧、旧共産圏にNSバンドが多い傾向に関して、アブサードのフロントマン、ヘンドリックのインタビューが興味深い。 「おれたちの国はソ連に依存しきっていた。ロシアのものを愛せ、自分の国は憎め、そう教えられてきた。だが自分の生まれを否定できる人などいないだろう。そういうのが不満で、だからおれたちはコミュニズムのアジやプロパガンダをこえたものを探したくなった。中略 ヴァイカーネスが最初反抗したのはキリスト教だった。しかし旧共産圏のバンドにとって抑圧の象徴はコミュニズムである。そしてブラックメタルは体制に反抗する若者の純粋性に端を発する音楽であり、このスピリッツが普遍的に存在する限り、このブラックメタルと極右の協調は北欧や東欧だけのムーブメントとは言えず、世界中どこにでも起こりうる現象と言えるだろう。 ヨーロッパではあまたの政治思想を生み出したフランス、最近では南米や中東、極東などのアジアにもNSブラックは現れはじめている。音楽はサタニズムと極右主義を結びつける糊のような役割を果たし、今後もこのムーブメントが収束する気配はない。 最近ではサタニズムという大枠の中に、ペイガニズムやネオナチ思想が含まれているという考え方があるようで、フィンランドのカルトブラックメタルの大御所、「サタニックウォーマスター」がこの考えを支持しているようである。ちなみにサタニックウォーマスターはカルトブラックとはいえ、その楽曲のレベルの高さから非常に大きな影響力を持ったカリスマバンドである。 このようにブラックメタルの世界では、本気度の高い少数のカリスマバンドが、他を牽引するという形が顕著で、ブラックメタルバンドの中のどれほどが本気のネオナチなのか実態把握はできていない。なにしろファッションとしてネオナチを標榜するバンドもいれば、本気だがレコードのセールスを気にして公言しないバンドもいるので、正確に把握することは困難だと考えられる。 しかし当の旗振り役であったヴァイカーネスは2009年、仮出所し、ネオナチ思想とは距離を置いた発言をしている。これは彼が家族の元に戻ったことが深く関係していると考えられ、またBURZUMとしての活動を再開したために、CDの売り上げをわざわざ下げるような真似はおいそれとはできないのかもしれない。いずれにしても彼が思想的に完全にクリアーになったわけではないことは彼が出所後に発売したCDを聴けば明らかである。※メタルへ回帰し、デプレッシブでペイガニズムを感じさせるサウンドは驚くほど収監前と変わっていない。 ※刑務所ではギターの持込を禁じられていたヴァイカーネスは、小型のシンセサイザーを持ち込んでメタル度皆無のアンビエントミュージックを製作販売していた。 またオフィシャルサイトでは武装親衛隊の軍服を着た写真が掲載されており、軍オタのおっさんのようにも見えるが、彼の過去の発言を参照すればあまり反省はしていないのではないかと、長年のいちリスナーである筆者は思うのである・・。(その方がおもしろいしね 笑) これは軍服に詳しくない普通の人はパッとしないかもしれない。なにしろSSと言えばこの黒服→ |
||||||||||||||
|