8月13日

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その晩、将校たちは、シュトレールケとその補佐たちによって飾り付けられた食堂に集まった。ブローベルはわたしたちのところに現れたときすでに飲んでいて、眼が充血していたが、自制してほとんど喋らなかった。将校の中では最年長のフォクトが祝いの言葉を捧げ、彼の健康を祝して乾杯の発声をした。それから、ブローベルが話すよう求められた。


「マイネヘーレン(諸君)!祝ってくださってありがとう。諸君の信頼は私の心に染み入ります。実は諸君に辛い知らせをお伝えしなければならない。昨日、ロシアの南方HSSPF(上級SS兼警察指導者)、オーバーグルッペンフューラー(SS大将)のイェッケルン殿が、われわれに新しい命令を伝えた。この命令はライヒスフューラーから直接伝えられたもので、われわれに強調されたのと同様、わたしはここで強調しておくが、《総統》ご自身に発するものである。」
喋りながら、彼は身を震わせていた。ひとこと言い終わるたびに、彼は頬の内側を噛んだ。

「われわれのユダヤ人に対する行動は、向後、住民の全体を対象とするものにしなければならない。一切の例外はない。」

出席していた将校たちは愕然とした反応を見せた。何人もが同時に喋り始めた。カルゼンが声を上げたが、信じられないといった様子だった。「全員ですって?」
「全員だ」
と、ブローベルが確認した。
「だが、それはいくらなんでも不可能だ。」
カルゼンが言った。彼は哀願するかのようだった。わたしはと言えば、ただ黙り込んで、強い寒気のようなものを感じていた。
・・・
カルゼンは反論を繰り返した。
「しかし、シュタンダルテンフューラー(SS大佐)殿、われわれのほとんどが結婚していて、子供もいるんですよ。われわれにこんなことを要求することはできない」
「マイネヘーレン」、ブローベルが決然とした、しかし同じように血の気の失せた声でさえぎった。
「われらが《総統》アドルフ・ヒトラー直々の命令である。われわれは国家社会主義者でありSSであるのだから、服従しなければならない。理解していただきたい」
・・・
将校たちは暗い顔をして黙りこくっていた。見るとケーリヒが次々に杯を重ねていた。ブローベルの血走った眼が、アルコールの帳を通して輝いていた。
「われわれはすべて国家社会主義者であり」、彼は続けた、
「われらがフォルク(民族)とわれらが《総統》とに仕えるSS(親衛隊)である。思い出してくれたまえ、フューラーヴォルテ・ハーベン・ゲセッツェスクラフト、そう、《総統》の言葉は<法>の効力を持っている。諸君は人間であろうとする誘惑に抗わねばならない。」

「慈しみの女神たち」、1941年8月13日、パウル・ブローベルの誕生パーティーのシーンより一部抜粋。

この小説は劇小説だが、1941年8月、この付近でユダヤ人の絶滅がナチ指導部の最も高いところ(=ヒトラー)で決定・命令されたことが確実視されている。

ブローベルとその指揮下の特務部隊はこの直後キエフ郊外バビ・ヤール渓谷で三万人以上のユダヤ人や共産党員をたった二日間で殺す。

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